二十六輪目
驚きからまだ呆然としている二人は、夏月さんに引っ張って奥へ連れて行ってもらう。
玄関の鍵を閉め、靴を並べようとしたらそれはすでに高瀬さんがやってくれていた。
「ありがとうございます」
「ううん、気にしないで」
最後にもう一度戸締まりを確認し、高瀬さんとリビングへ向かえば。
「か、夏月ちゃん、さっきの男の人は何なのかな?」
「いい? 正直に答えなさいよ。ウソをついたと思ったら制裁が待っているからね」
「……それ、どのみち制裁を受ける未来しか無いんじゃ」
「シャラップ! 夏月に拒否権なんかないのよ!」
そこには再起動を果たした二人に詰め寄られている夏月さんの姿が。
リビングに入ってきた俺と高瀬さんに気が付き、目で助けを求めてくるけど、あの場にどう割って入ればいいか分からないため。
ごめん、とジェスチャーを返して飲み物を用意するためキッチンへ向かう。
「ゆ、優くんについてはハルもよく知ってるよ!」
「えっ!? 夏月、私のこと売るの!」
高瀬さんも俺の後に続こうとしていたが、そうはさせまいと速攻で夏月さんに売られていた。
「私よりも先に装飾品プレゼントされてるんだからいいじゃん!」
「それとこれとはまた別じゃないかな! 夏月もネックレスと指輪貰ったんでしょ! あっ! 左手の薬指につけてる!」
俺がいなくなった、と言っても見える範囲にいるのだが、リビングでは夏月さんと高瀬さんの楽しそうな声が聞こえてくる。
楽しそうと思いながらも俺に被害がこないよう、祈りながらそちらを見ることはないのだが。
飲み物は何がいいのか聞くのを忘れていたため。
取り敢えず人数分のコップと、いくつか適当に飲み物をトレイにのせてリビングへと戻っていく。
「…………」
そういえば、途中から静かになったなと思っていたが。
トレイを持ち、リビングへと戻った俺の目にとても面白い光景が入り込んできた。
ソファーに座る月居さんと樋之口さん。
そして床に正座している夏月さんと高瀬さん。
本来ならばソファーに座っている方が優位なのだろうが、目に映る光景では夏月さんと高瀬さんの方に余裕が見える。
ってか、今日は夏月さんの誕生祝いで集まったのでは。
「……あの、みなさん何飲みますか?」
少し声をかけにくい状況であるけども、このままというわけにもいかず。
高瀬さんたちが持ってきてくれた食べ物も未だ袋に入ったままである。
普段の流れがどういったものなのか俺はサッパリ分からないため、任せようにもこの状況じゃ無理だ。
「あ、コーヒーで」
「私はリンゴジュースをお願いしようかな」
「桜くん、私もコーヒーをお願い」
「優くん、コーヒーと牛乳を一対一で!」
意外にも、声をかけると先程の状況など無かったかのように反応が返ってきた。
高瀬さんと夏月さんも普通に正座をやめ、月居さんや樋之口さんと共に食べ物をテーブルに並べていく。
「食事が始まったら、またゆっくりと話を聞かせてもらうから。……もちろん、君にもね」
「へ? あ、はい」
「あ、冬華ちゃん、ポイント稼ぎですか」
「秋凛、変なこと言わないで」
ウインク付きで唐突に話を振られたから心構えが出来ておらず、気の抜けた返事になってしまった。
どんな事を聞かれるのか分からないが、やっぱりメンバーに男が出来るのはマズかったのだろうか。
玄関での反応も含めて考えてみると、夏月さんと高瀬さんは俺のことをメンバーに伝えていないようだったし。
少しでもいい印象を持ってもらえるよう頑張らねば。
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