十五輪目
翌朝、夏月さんと一緒に俺の家へと向かい、簡単に片付けをしていたところへ引っ越し業者がやってきたのだが。
そこからが早かった。
まるでこれから夜逃げでもするかのような気分でどんどん片付けられていく荷物を見ていたのだもの。
何か手伝おうとしたが、むしろ邪魔にしかならないだろうと思い、夏月さんとベッドの上に座りながら見ているだけであった。
「ね、優くん」
「はい」
「このベッドとか、処分しちゃっても大丈夫?」
「別に大丈夫ですけど……わざわざ買い直すんですか?」
「ううん。もうベッドはあるからさ」
「なら特に問題はないですね」
そう返事をしたはいいものの。
ある、と言うベッドを俺は見てない気がする。
注文なり、店で買った物が今日届くとかだろうか。
「ってことなので、このベッドの処分をお願いしてもいいですか?」
「分かりました!」
『ありがとうございます!』
夏月さんが作業している人へ処分を頼んだわけだが、返事になぜ感謝の言葉があるのだろうか。
中古ショップとかにでも売る感じかな?
今更だけども声を聞いて気が付いたが、全員女性だ。
筋トレが趣味でありそうなほどムキムキの子もいれば、一見細いが力を入れれば力瘤を作れるような子もいる。
この中の誰よりも一番力がないのって俺だなとか、どうでもいいことを考えている間に気が付けば部屋の中は空っぽになっていた。
夏月さんの家へと戻ってきたが、今度は荷解きである。
家具の配置など考えてなかったのでほとんど引っ越す前と変わらない感じになってしまったが、まあ良いだろう。
夏月さんの家にある物との擦り合わせをし、色々と俺のものを処分したはいいのだが。
引っ越し業者の人たちからはとても嬉しそうにしている。
こういった物の処分って面倒なだけだと思うのだが、会社特有の流すルートみたいなのがあるのだろうか。
そんなこんなで引っ越しも無事に終わり、業者の人たちが帰っていったわけだが。
「夏月さん。俺のベッドってそのうち届くんですか?」
「ん? ベッドならもうあるじゃん」
「…………え? あ、あー、なるほど。確かに、ありますね」
「もしかして、一緒に寝るの嫌だった?」
「そんな事はないですよ」
「んふふ。良かった」
つまりはこれから毎晩、同じベッドに寝るわけだ。
いまだに夢を見ているのかと思ってしまうが、これは紛れもなく現実で、ドッキリなんかでもない。
こんなに良いことが続くと後が怖いような気もするが、分からない先のことよりも今を大事にしなければ。
買い物に行くと言う夏月さんに荷物持ちを申し出たが、すぐそこだからゆっくりしててと断られてしまった。
大人しくソファーに座ったはいいものの、やる事はなくボーッとするしかない。
すでに日は傾き、綺麗な夕焼けが広がっている。
……ここ、最上階だから景観がとてもいいな。
本当に昨日の今日で引っ越しが終わると思っていなかったため、何もしていないのに変な疲労が溜まっている。
気を抜いたからか眠気がきて、このまま寝てしまいそうになるが。
スマホに通知がきたのでスマホに手を伸ばして確認すると、それは高瀬さんからであり。
「あ」
何か忘れているようなことを思い出した。
自分自身が受けた衝撃がデカすぎて、夏月さんと付き合ったことを伝えていない。
報告するほど親密なのかと聞かれたら、また分からないが。
一応、きちんと伝えておくべきなのだとは思う。
そんな自分のポカは一度置いておき、高瀬さんからの連絡を確認してみれば。
『来週の土曜日はお休みなので、もし良かったら一緒に遊びませんか?』
と、遊びのお誘いであった。
───
引っ越し業者(表)
世界観が変わる前とほとんど何も変わらない。
ただ、男性の業者は殆どいない。(裏メニュー的なやつで、割増価格を払えば男性業者が来ると言う噂がある)
引っ越す人が男性である、または男性が関わっている場合。前日の申し込みでも請け負う。
引っ越し業者(裏)
今回の話のように男性が引っ越しをする場合。物の処分を頼むと引っ越し料金の割引であったり、その他色々とサービスがある。
処分として業者に渡ったものは公平な抽選を行い、分配される。
夏月のような有名人でなくとも、男性に関する情報をどこかで漏らせば刑務所行き。悪質な場合は会社が潰れる。
やらかせば重い罰であるが、それでも男性の私物が合法的(仮)に手に入る可能性があるため、人気職の一つ。
ここに就職した女性はほとんど独身のまま生涯を終える。
『寝取られ』という性癖に囚われた彼女たちは手に入れた物を使い、絶対に手に入らない男性を思い、いたす。
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