十六輪目
最近は一日が過ぎていくのを早く感じる。
仕事の調子は特に変わりないのだが、私生活での変化が大きいからだろうか。
高瀬さんと遊ぶ約束した日はもう明日まできているのだが、教えてくれるのは待ち合わせ場所と時間だけでどこに行くのかは知らされていない。
ミステリーツアー的なものなのだろうが、本来ならば俺がプランを考えるところではと思う。
いや、それはデートプランか。
友達とただ遊びに行くだけならばどこ行きたいか決めれば良いだけなのだし。
あの日に連絡が来てすぐ、夏月さんに伝えたのだが。
高瀬さんからの誘いがあった事に対し、夏月さんは簡単に行ってらっしゃいと言うだけであった。
俺が他の人と遊ぶことに対して特に何か口出しするつもりがないだけなのか、浮気するようなことが無いと信じられているのか。
少し引っかかったのは、夏月さんがどこか後ろめたさのようなものを感じていたように見えたことだが……まあ、気のせいだろう。
「お疲れ様です」
「お疲れ様ー」
「あ、桜くん」
「はい」
「この間話してたやつ、大丈夫そうだよ」
「本当ですか。ありがとうございます」
「メールで送っておいたから、一度試してみて」
「分かりました」
今日は午前だけ仕事、午後は休みを貰った。
挨拶をして会社を後にし、向かう先は郵便局である。
本日は給料日であるため、通帳に記入するのと遊びや趣味に使うお金をおろす為なのだが。
「…………うん?」
通帳を開いたところでふと手が止まる。
先月、最後に見た時よりも預けている金額が多いような?
ゆっくり確認したいところではあるが、そう長く独占していられないため。
さっさと用事を済ませ、その場を後にする。
「うーん…………?」
家に帰り、手洗いや荷物の整理などを済ませて通帳の確認をしてみるが。
貯金していた金額が記憶の倍以上あるし、なによりよく分からないのが『男性定額給付金』というやつで初めて見る。
スマホを使って調べてみたはいいものの、何やら面倒な言い回しで書かれているが……要約すれば男性に快適な生活を、的なことだろう。
最近、社会に女性も出てきたというところでまた男優遇の政策なのかと少し呆れるが、ふと関連記事に目が止まった。
それは男性出生率や世界人口の推移、世界の男女比率について書かれており。
「…………フェイクニュース?」
真っ先にそう思ったが、他を調べてみても似たような記事が出てくる。
世界的に俺をドッキリにかけているのかとも思ったが、大掛かりだしそこまでやる面白みもないはず。
だからといってこんな逆転世界に気付いたらいました。ってのもまた信じられないが。
仮に男女比率が偏っている逆転世界だったとして。
思い返してみれば当てはまるようなことがあるような……?
痴漢にあったり、イケメンっていうほどでも無いのによくみられたり。
とんとん拍子的に夏月さんと恋仲になったのも、こういうバフがあったからなのかと少し納得。
男なら誰でもいいのかと思ったりしたが、もしそうなら選り取り見取りで選べるだろうし。
俺だから選んでくれたと、ポジティブに思っておこう。
「あ」
色々と変わっている部分を調べるのが面白くてだいぶ時間が経ってしまったが、やることをやっておかねば。
自身の部屋に置いてあるパソコンを立ち上げ、メールを確認し、指示に従って設定をしていく。
無事にできたことをメールで送り、パソコンを落としたところで夏月さんが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいまー!」
玄関まで向かえば、靴を脱いだ夏月さんが胸に飛び込んでくる。
うーん、可愛い。
最初は驚いたしファンに戻って変な声を出したが、五日も続けば多少は慣れたものである。
「あ、夏月さん」
「ん?」
抱きついたままこちらを見上げる夏月さんはこれまた可愛らしく、幸せが胸いっぱいに広がってゆく。
このままトリップしそうになるが、要件を伝えなければ。
「リモートワークできるように調整してもらったから、これからは家で仕事できるよ」
たまに会社へ行くこともあるだろうけど、これでおうち時間が増えるはず。
仕事の効率が落ちるようならまた考えなければいけないが、その時はその時だ。
───
男性定額給付金
男性には元気でいてもらわなきゃ!(国にいてもらわなきゃ)→お金がいるよね!って事で毎月振り込まれる。
パートナーがいると貰える額はさらに増える(パートナーの人数が増えた場合もまた然り)。
妊娠、子供が産まれた時、子種を納めた時などはまた別途振り込まれる。
深刻な男性不足の国は支給額やら待遇やらでなんとか来てもらおうと頑張っている。
でも日本は治安や食、その他色々が良いためなかなか出て行かない。
逆転世界への認識は通帳からということで。
もう少し細かに書きたかった気持ちはあるけども、ダレそうなので簡潔に。
もっと早く認識しても良かったと少し後悔。
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