六輪目
「ん? 君は……え、男?」
「は、はい。男ですけど……」
まさかまさかの登場にまた変な声を口から漏らしてしまった。
いま、目の前に推しが二人もいるだなんて、俺はこの後に死ぬ未来が待ってるのだろうか?
「ちょ……ハル、ついに手を出したの?」
「ち、違う違う! 昨日スタジオで会って、ファンって言ってくれた子なの!」
「それはそれでアウトなんじゃ……?」
何やら目の前で二人が話しているけども、そんな姿をすぐそばで見られるなんて。
ステージ上では仲良くてもプライベートでは……ってたまに聞く話だが、楽しそうに二人が話しているのを見れて幸せである。
なのでファンとしてはずっとここに居たいところなのだが、推しのプライベートの邪魔をするのは個人的にいただけないので帰り支度をしていると。
「あ、あっ、桜くん待って!」
「この後、何か用事でもあるのかな?」
「い、いえ、特には。お二人のプライベートを邪魔するのもあれなので、帰ろうかなと思って」
「全然邪魔じゃ無いよ!」
「そうそう。私も君とお話ししてみたいし」
そう口にした常磐さんは自然な動きで高瀬さんの隣に腰掛け、ずっとこちらの様子を伺っていた店員さんに声をかけて注文をしている。
高瀬さんは困ったような、助かったような不思議な表情をして常磐さんを見ていたが、俺に見られている事に気付き、照れた笑みを浮かべた。
あっ!! 可愛い!!!
そんな素敵な笑顔を向けられたらまた変な声が漏れてしまう!
「──ふへっ」
結局、我慢しきれず漏れてしまったが、二人は他のことに意識を向けていたのか気付いた様子はなかった。
「ね、君は何がきっかけでハルのファンになったの?」
推しの! 顔が近い!!
「ふぁ……え、えっと、お二人も担当しているアニメの前作のFinal Liveに行く機会がありまして……。そこから声優に興味が出て、その……『Hōrai』の中でも高瀬さんと常磐さんが推しと言いますか……」
「え、私もなんだ! ありがとね!」
公開告白みたいな恥ずかしさを覚えながらもなんとか言い切れば、常磐さんが感謝の言葉を口にしながら俺の手を握ってくる。
俺は突然の出来事に何も言葉を返すことができず、にやける頬を押さえるのでいっぱいいっぱいなのだが。
はたして本当ににやけ顔を抑えることが出来ているのか不安だ。
「か、夏月! 私もまだなのにそんなのずる…………その行動もアウトだと思うなっ!」
「ごめんごめん。つい嬉しくてさ。だからそんなに怒らないでよ」
短くない時間手を握られていたが、自分から放すタイミングを切り出すのは嫌だなと思っていたら。
高瀬さんが常磐さんに何か言いながら離されてしまった。
手に残る温もりや感触だけで一ヶ月は戦えそう。
なんならこのシチュエーションで半年は無敵だ。
「でもほんと、必然的に男性のファンはなかなか会えないから嬉しいよ」
「え、そうなんですか? 男性ファンの方が多いと思いますけど」
「そうなの? 男性ファン専用の何かあるのかな? ハル、何か知ってる?」
「ううん。聞いた事ないよ」
「だよね」
俺の一言で何やら変な空気が流れてしまったが、この話を続けるのは良くないと、これ以上深掘りする事なく話題を移す事に。
「そういえば、今日は二人で会うために
「いえ、昨日高瀬さんから貰ったサインをしまう額縁を買いに。新規垢からきたDMでここにきたら、高瀬さんだった。って感じです」
「ハル、こんないい子じゃなかったら終わってたよ?」
「そ、それはそうなんだけど……。夏月なら我慢できた?」
「そりゃ出来ないけど……あ、そうだ! ね、連絡先交換しようよ!」
二人でまた話してると思ったら、連絡先の交換をしようと唐突に言われた。
隣にいる高瀬さんも驚いた顔をしているし、常磐さんの思いつきなのだろうか。
果たして本当にしてもいいのか考えるところなのだが、考えとは別に体は正直なようで。
俺の手にはスマホが握られており、常磐さん、高瀬さんの連絡先が追加されていた。
追加された二人の連絡先を見て、今だに実感が湧かない中。
常磐さんの口からさらにとんでもない言葉が出てくる。
「このままここでゆっくり話してるのもいいんだけど、私の家が近いし。そこに移動してノンビリしない?」
───
ついに手を出したの?
→レンタル彼女みたいなサービスがある。
男が少ない上、登録する男性もほぼいないため料金はとんでもなく高い。
「アタリ」は最後まで出来る実質──。
高瀬春は男性と接する機会が少なかったため、対面で話すと緊張する。
常磐夏月は春よりも男性と接する機会は多かったが、人柄ゆえか夏月に対する男性の認識はいい人止まり。恋人は未だゼロ。
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