七輪目
きっと、これは夢なのだろう。
現実の俺は事故に遭って昏睡状態となっており、死ぬ前に幸せな夢を見ているのだ。
じゃなければここ数日どころか昨日今日で推し二人と会ったり、更には家までお邪魔している現状に説明がつかない。
「桜くんは飲み物、何がいいかな?」
「え、あ、……同じもので」
何があるのか分からないので、取り敢えず同じものと言っておけば大丈夫だろう。
でもトマトジュースだけはどうあっても飲めないので、その場合は申し訳なさで吐きそうになるが取り替えてもらうしかない。
今更ながら常磐さん、高瀬さんに自己紹介をしていないと気付いた。
けれど常磐さんが俺の名前を呼べていたのは高瀬さんが呼んでいたのを聞いてだろう。
「お待たせー。砂糖とミルクはお好みでどうぞ」
「ありがとうございます」
思っていた以上に本格的なティーセットが出てきて少しビビっている。
これ、いくらなんだろう。と、コーヒーに砂糖とミルクを入れながら俗物的な考えをしていれば。
「ね、ねぇ、夏月。本当に大丈夫?」
「たぶん大丈夫」
「たぶんって言った!」
「彼もあんな様子だし、きっと平気だって」
また、二人で楽しそうに話をしている。
ほいほい付いてきた俺も悪いのだが、やっぱり断るべきだったろうか。
たとえ社交辞令だったとしても、推しに『家、来る?』なんて聞かれたら首を縦に振るしか無い。
断れるわけがないのだ。
「そう言えば自己紹介がまだだったね。
「あ、
「あ、えっと、
今更だからどのタイミングで切り出したものなのか分からなかったが、こうサラッと会話の流れを作って話が出来るのはすごいと思う。
話を合わせることは出来ても、常磐さんのように流れを作るのは俺だと無理だ。
だけどこう、改めての自己紹介というのは変な照れが入る。
高瀬さんも同じなのか、少し顔が赤い。
「ハルもまだだったの?」
「うん……サインの時に名前聞いただけだったな、って。桜くんも私の事知ってくれてたし、忘れてたというか……」
「まさか昨日の今日で会えると、自分も思ってなかったので」
「うーん……なんか壁があるような。もう少しこう、私みたいな感じで接してもらっても」
「えーっと……まだ、その、気恥ずかしいと言いますか」
カモーン、みたいな感じでいるが、いきなりそこまで親しげに会話する事なんて俺には厳しい。
今も推しと会話をしている嬉しさを必死で抑えているのだ。
これ以上はキャパオーバーである。
「夏月、それは流石に段階飛ばし過ぎだと思う」
「むぅ……」
「また別に機会があれば追い追いという事で」
納得していないようだが、今日のところは引いてくれるようだ。
───
この世界では彼女(彼氏)の事をパートナーと呼称する。
基本的に男性は一人で外出せず、パートナーが常に一緒にいる。
パートナーは何人いても問題はなく、むしろ国としては重婚推奨。
(主人公は気づいていないが、会社やスタジオに行った時にも上司のパートナーはいる)
仮に男性が一人でいたとしても厄介ごとを抱えているかワケありなため、下手に手を出すと面倒なことになる可能性が高く、目の保養に見るだけ。
稀にリスクを顧みず行動に移す人もいる。
痴漢した女性は観察から主人公にパートナーがいない事を見抜き、恐怖で行動に移せないであろうという確信のもと行ったが、お縄についた。
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