第2話 目覚める者と堕ちる者

 閉めたカーテンの隙間から差し込む陽の光。

 木々に留まって時を告げる、小鳥の声。


 「うぅ…ん」

 朝が来た。心地良かったそよ風は初夏の日差しで温まり、寝苦しさによる不快感から目が覚める。


 (まだ六時……)

 重いまぶたを擦り、おとみやことはボンヤリと目を開けた。

 目覚ましはまだ鳴っていない。けれど寝汗の気持ち悪さと相まって、再び眠る気にはなれなかった。


 モゾモゾとベッドから這い出し、鳴り出す必要の無くなったデジタル時計の目覚まし機能をオフにして、机に戻す。

 先程まで視ていた夢の余韻よいんは残っているものの、今や内容までは思い出せない。


 所詮は夢なのだと気持ちを切り替えると、衣装棚から取り出した着替えを手にして二階の風呂場へと足を運ぶ。

 廊下の空気は、少し生温かった。

 

 低めの温度でシャワーを浴びると微睡まどろみの名残はどこかへ行き、意識がはっきりとする。


 風呂場から出て洗面台の前に立つと、バスタオルで全身の水気を拭ってから着替えた。

 歯を磨き、くしで手早く髪をいて、鏡の前で確認する。


 落ち着きを感じさせる、背中まで届いたつやのある栗色の髪。

 透明感を感じさせる白いやわはだによって引き立つ、父親譲りの黒茶色の瞳。


「うん、良い感じ」

 今日の気分に合う服として選んだ灰色のマーメイドワンピースは、琴海のお気に入りの一つ。

 上半身を覆うラッフルカラーのバックリボンがとても涼しげで、服装に華やかさをもたらしてくれる。


「制服のある高校だったらこんな服装、考えられないですね」

 独り自嘲気味に呟いて、洗面所の壁掛け時計に目を移す。

 まだ七時前。余裕があるから、自室に戻って少しだけ講義の復習をすることにした。


「琴海ー! ごはんよー」

 暫くすると、朝食を知らせる母の声。


「はーい」

 返事をしながら教材を鞄に放り込み、リビングへ向かう。

 一階に降りると鼻をくすぐる、朝食のトーストとハムエッグの香ばしい匂い。


 「早く食べないと遅刻するわよ」

 そう注意して、琴海の母は朝食をテーブルに並べている。


 「えっ、もうそんなに時間が?」

 驚きと共にリビングの壁掛け時計に目を移す、どうやら洗面所の時計が遅れていたらしい。

 急いで朝食を口の中にかきこみ、鞄を手に取って足早に靴を履く。


 「行ってきまーす!」

 そう言い残して開いた扉は、今日も始まりを告げた日常へと琴海を迎えるのだった。




✧ ✧ ✧




 始まりは……何だっけ。

 確か──そう。傷付いて倒れていたカラスを助けたのが、最初だ。


 子犬位の大きさの、三本足のカラスだった。

 村のみんなや親に反対されてたけど、理由が非科学的だったから、私は自分の優しさを貫いちゃったんだ。


 馬鹿だなぁ、私。

 どうしてあの時、大人の言う事が聴けなかったんだろう。

 どうしてあの時、カラスが喋った事を心に留めなかったんだろう。


 もし、もしもあの時私が。

 この醜くて、矮小わいしょうで、どうしようもなく自分勝手だったこの私が。

 あの時三本足のカラスを見捨てていたのなら。


 こんなことには、ならなかったのかな。






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