希望ノ使徒
無気力なすび
第1話 終わる世界と固める決意
「そ…んな………………」
遺体が積み上がって山をなす。
人の身では耐え難い力によって朱色に染まった人体。濃い鉄と臓腑の酸い臭気を漂わせて。
かつての賑わいを見せていた国際線ターミナルはその面影を僅かに残すばかりで、圧倒的な力の余波の前に崩れ壊れていた。
そして…私の腕の中。
……徐々に体温を失っていく、大切な、大切な幼馴染。
その現実が…事実が…受け容れられなくて……イヤだ、ヤメてと繰り返す。
私から親友を奪おうとする死神に乞い願うように………………。
「原罪の
天を仰ぎ、その御手を大きく広げて歓喜に躍る救世主。
崩れ行く光景の中で、人類に敵意の牙を向けながら。
私は、私は何も出来なかった。
せっかく能力者として目覚めて、妖精を操る特別な力まで得られたのに。
なのに、なのに、私は何も護れなかった……助けられなかった。
友達も、日常も、なんの罪も無い普通の人達も。
疲労と激痛を噛み殺しながら。
だから私も動かないと、動かないといけないのに……。
「あ…あれ──?」
身体が、動かない。
心が、奮い立たない。
意識が……保てな………ぃ…………。
✧ ✧ ✧
霊長類。
それは、思い上がっていた人類が自ら称した、最高位の名。
2021年8月24日。
この日、文明の発展を支え、莫大な数の企業を参加に納めた
米国、ニューヨーク。
ダイモンドコーポレーション、マンハッタン島研究支部により虚数型
抵抗虚しくアメリカ政府は軍事による制圧が不可能と判断し、大統領令により戦術核の無制限使用を閣議決定。
その決定に携わった高官は相次いで拳銃自殺を遂行。
結果、250キロトン級核弾頭200発使用の末、辛うじて事態の沈静化に成功した。
この事例は、滅びに瀕する地球上で唯一ABWの脅威を退けた事例であり、その他の国の人類は次々に生存圏を奪われていった。
後に霊長の座に君臨していた人々は、この悪夢の日に起きた出来事が序章に過ぎなかったと思い知るのだが、それは言うまでもない事柄であろう。
以下は惨劇の始まりである2021年8月24 日時点での事例である。
英国、ロンドン。
マンチェスター研究支部によりABWが解き放たれ、屋外に存在する生命体が液状化。
推定死傷者数5千万。
中国、天津。
北京研究支部によりABWが解き放たれ、巨大脅威生物により文明が崩壊。
推定死者数9千万。
豪州、シドニー。
ニューカッスル研究支部によりABWが解き放たれ、大規模な
推定行方不明者数8千万、断定死者数7万。
トルコ、アンカラ。
イスタンブール研究支部よりABWが解き放たれ、非生命物質に敵性意識が芽生える。
推定死者数1千万。
そして、その全てを見届けていたのは相対する二つの存在。
一方は黒幕。
もう一方は
成層圏の遥か上空から……。
✧ ✧ ✧
──ビーッ、ビーッ
目覚まし…違う、警報音…………?
目を開ける。
暗い、
どこなんだろう、ここは。
頑強なドアの覗き窓から入って来る断続的な赤い光が、この場で異常が起きている事を
寝起きでボンヤリとした思考を動かして、私は最後の記憶を辿る。
えっと、確か私は幼馴染と空港に行って…それから──
──ガチャン、ギィィ
鋼鉄製の扉が開いて、その向こうには一人の青年。
荒々しく黒髪を後ろにかき上げた威容。
褐色の肌に、黒いオーバーコートに身を包んだ漆黒の銃士。
私達の……みか……た…………。
「ようやく起きたか、寝坊助」
思い出した、あぁ……思い出したっ!
私は、負けたんだ。
あの空港で、何もかもを
「ひ…ッ、ァ……ッヴア……ア゛ア゛」
ヤダ…ヤダ……ヤダ……………。
信じたくない、受け入れたくない。
こんな、こんなのが現実なんて、そんなの……そんなの──!
「泣きじゃくってないで付いて来い。状況は更に最悪だ」
そして廊下の最奥にある広い空間に到着すると、そこに集まっていた人達に向かって強引に私を突き出した。
「連れてきたぞ」
「あっ、コラ! またキミは女の子をぞんざいに扱ってー!
ごめんよ
キミと共に救出できた生存者だから彼を向かわせたんだけど、まさかこんなに無情な奴だったなんて」
私より年下に見える、ベレー帽を被った紫髪のポニーテールが素敵な女の子が慰めてくれる。
初対面のはずなのにどうして私を知っているのか不思議だったけれど、私は泣き続けてしまっていて過呼吸を起こし、それどころでは無かった。
「知らん。地球がこうなって俺の復讐が遂行出来なくなったんだ。腹の虫が悪い俺をこれ以上イライラさせるな」
「まったくキミという人は…もうちょっとデリカシーという概念を持ちたまえ。
とは言え音宮さんが落ち着くのを待つほど猶予が無いのも確かだ。
ちょっと強引だとは思うけど、ワタシの能力で少し脳の芯を弄らせてもらうよ」
私の額に指を二本当てた女の子。
吐息のような言語で呟くと、何かをなぞる様に指を動かす。
「……え?」
途端、私の感情は急速に落ち着いていった。
まだ哀しくはあるけど、頭もスッキリして思考が纏まっている不思議な状態。
「ごめんよ、効果は一時的なものだから安心しておくれ」
「はい…えっと……」
「ごめんごめん、名乗るのが遅れたね。
ワタシはティファイン・エフェメロス、ここ【対凶災粛清機関Rebel】ガルーダ支部の艦長をしているんだ。よろしく☆」
そう言ってエフェメロスさんが無邪気に片目を閉じる。
控えめに言って少し愛らしい。
「音宮琴海です、よろしくお願いします」
「うんうん、既に聞き及んでいるとも。そこのヒトデナシ…じゃなくて
ジトっとした目を向けるエフェメロスさん。
当の叛真さんは素知らぬ顔で腕を組み、壁にもたれ掛かっていた。
「さて、全員揃ったことだしブリーフィングを始めるよ。
メンバー紹介をしてたいところだけど生憎今は時間が無くてね、後々接した時にでも互いに名乗り合ってくれたまえ」
周囲を見渡すと部屋の中心にはモニター付きのテーブル。
それを取り囲むかの様にして何人かの人影。
纏う気配からして、全員が能力者なのだと
でも、叛真さん以外に見知った顔はいなかった。
「先ずは現状の確認だ。これを見てほしい」
エフェメロスさんがモニター付きテーブルの裏を操作すると、浮かび上がるホログラム映像。
何だろう、モザイク状の……球?
「これが現在の地球の状態だ。見ての通り、ダイモンドのクズ共がABWを一斉に解き放ったおかげで現実強度が著しく低下し、虚数領域と現実世界が混ざり合ってしまっている」
嘘──……このモザイクで覆われた球が、地球?
そんな、あり得ない…一体、どうなってるの?
「事象発生当初は打つ手が無いかと思われてたんだけどね、コレを見てほしい」
エフェメロスさんがクルクルとホログラムの地球を回す。
見ればモザイクとは独立した形で、ポッカリ空く幾つかの黒い穴。
「これは穴に視えるがれっきとした虚数由来の障壁だ。
時元の法則性が我々とは一線を画しているため、これからはこの穴を時空障壁と呼称するとしよう。
世界滅亡と共に現れたこの穴に、ワタシはこの事態を何とかするための鍵が潜んでいると睨んだ」
エフェメロスさんはそこで言葉を切って、深刻な面持ちで告げる。
「ただノストラダムス演算機が弾き出した結果によると、この時空障壁に対する物理干渉は存在定義の崩壊を意味する。
しかし適正者であれば、内部に入り込む事だけは可能であることが先発隊によって証明された。そこで……」
エフェメロスさんは私と叛真さんに向けて頭を下げる。
「残ったメンバーで適正がある者は、保護化にある筈のキミたち二人だけだったんだ。こちらの事情に巻き込んでしまい申し訳ないけど、どうか協力して欲しい」
エフェメロスさんの言葉に、壁にもたれていた叛真さんがゆっくりと口を開く。
「勝手だな……だがまぁ、こちらも復讐の手掛かりが本当に失われたのかを確認する必要がある。動ける手立てがあるなら、その話に乗らない手は無い」
「ありがとう」
エフェメロスさんはくるりとこちらに視線を向けると、また同じように頭を下げた。
「キミにも、是非お願いしたい」
この場にいる全員の視線が、私に注がれる。
重圧がすごい。でも、これだけは訊いておかないと。
「あの、一つだけよろしいですか。
その時空……障壁? に入れば本当に地球を元に戻せる手立ては見つけられるのでしょうか。
全て──元通りになるのでしょうか」
私の切実な問いに、エフェメロスさんは申し訳なさそうに首を振って。
「確証は無いし、確約も出来ない。
それでも、我々はそのための道を切り拓くために、ここであらゆる手を尽くして動かなくちゃいけないんだ。
それが今後も文明を継続させるための、我々Rebelとしての責務であり、この場に生き残った皆の想いだから」
エフェメロスさんの言葉に、私は目を閉じる。
記憶には無いけれど、私は能力者への覚醒時に一度世界を救ったらしい。
なら今度は私が、私自身の意志で、私自身の決断でもう一度世界を救うんだ。
もう一度あの平和で前を向ける日々を。
友達と笑って、勉学に勤しんだあの何気ない日々を、私の手で──
「分かりました。様々な面で未熟な私ですが、私達の世界を取り戻すお手伝いをさせて下さい」
私の決意に、エフェメロスさんはありがとうと一言だけ。
この先、多くの困難が生き残った私達の前に立ちはだかるだろう。
それでも絶対に挫けない。
それ以上の残酷な真実と絶望を、私は乗り越えて今、
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続きを書くモチベになりますので、面白かったら評価して下さい(○ `人´ ○) タノンマス!
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