とゞめ

釣ール

異形交流

 数多くのモニターがタワーマンションの監視カメラ越しに映像を送ってくる。

 大方金持ちの連中を守る為、学歴職歴を隠している二十歳の 転天役過ろいどないとはすっかりこの仕事にも慣れてしまった。


 体調不良で休めないが、実質住み込みで働かせてもらっているようなものでタワーマンションの一室で暮らしている。

 ミニマリストではないがほばモニターで娯楽も楽しめるからか転天はまんざらでもなかった。


 ブザーが鳴り、ここのところ増えている不審者が現れる。

 この仕事の採用条件に


「喧嘩慣れしていること」


「死にかけたトラブルを何度もかい潜っていること」


「コンプラを守ること」


 他にもあったが重要な条件はこの三つ。

 不況で手段を選ばない不審者が何度も現れる。

 人間相手ならまだマシなんだが…そう思っていたら営業マン風で住人かと間違えそうな誰かが入ってきた。

 もはや見た目や内面で判断なんて綺麗事は言えない。

 それに見た目が一番わかりやすい。

 この人間は堂々とセキュリティを破っていた。

 こんな住人リストにはないし、引っ越してもすぐに情報は入る。

 転天は急いで現場へ向かった。



 -現場


 恐らくあの人間はこの建物に精通している。

 怪しまれないようにやってくるとは。


 人間は一番怖い。

 だが酷く脆い生き物。

 とはいえこの人間は腕に自信もありそうだ。



「モニターからこんにちは!

 誘ってるのはわかっていた…だが堂々としすぎだ。

 年老いた警備員か誰かなら倒せるって思っていたんだろう?

 残念だったなあ!

 若手だよお!」


 相手は恐ろしく静かだった。

 そしてどこかに武器を隠していながら素手で応戦しようとしている。


 アルバイトォォォ!

 と叫んで目立ちたくなるくらいにはまだ幼さがある転天だったがそこまでやらなくてもこの人間を倒せば報酬は上がる。

 最初から不審者達を倒せたわけじゃなかったが、高校時代から戦ってばかりいたからこれくらいは平気だった。

 むしろ相手は機械のように音を立てない。


「オタクキャラがモニターを支配していた時代はもうとっくに終わってんだ。

 対価と大義の為に上げたスペックを舐めんなぁぁぁぁ!」


 不気味な人間や生き物とはよく戦ってきたがこいつは異質だ。

 前例ができれば怖くはない。


 迎撃権限の元、対処させてもらった。

 相手は大人しく倒されてくれた。

 セキュリティをここまで突破して転天に仕事をさせた理由はわからないがいつも狙われているこのタワーマンションの防衛には成功した。

 さっさと帰ろう。

 溜まっているアニメとドラマと映画が残っているのだから。

 仕事を終えたがあまりスッキリしない。

 どこか違和感があるがこんな日もあると言い聞かせ部屋に戻る。



 -部屋にて



 今日はあの出来事のみで終わった。

 夜もチェックはしているがあまり体力を使わずに済みそうだ。

 するとほぼ人気のない監視カメラに異常があった。

 だがブザーが鳴らないということは…



「今度は怪奇現象か!」


 もし転天に予算があれば今までここで体験した怪奇現象をうまくフィクションにしたて、監督は無理でも動画投稿者として活動できるぐらいには人間と同じ数だけ怪奇現象もあった。

 勿論スタンダードに過ごしていてよほどヤバイ場所に行かなければ怖い話なんてほぼない。

 この怪奇現象はあの人間がやってきてからだ。

 昼に戦った人間があの部屋に向かった形跡はないが何か技術を使ったのかもしれない。

 だが部屋には異常はない。

「モニター」に異常があるのだ。


『もう居るんだよ。』


 不意をつかれたのか転天は後ろを振り返ると敵意のない中性的なアンドロイドらしき何かがいた。

 いや、そんなドールはまだ持っていないのだが。


『もう私くらいの技術の結晶になるとイントスールだとかそんな言葉要らないで、こうやって幽霊みたいに現れることも可能。』


 幽霊じゃない…技術の結晶?

 あの人間が寄越したのか?


『霊体AIヒュプノフリング。

 それが私の名前。

 あの鉄面皮も潜入がバレたのに上手く私を送り込めたみたいで流石。』



「何をするつもりだ。」



『目的は達成している。

 あなたに気付かれていないとは思わなかったし、油断もしていない。

 だからほぼチェックする必要のないモニターから私はやってこれた。』


「なるほど。

 俺ごと監視下に置くのか。」



『霊体AIだからすり抜けるよお。

 あなたの攻撃データもサンプリングしたし。』


 あの人間の方がよほどAIに近い。

 恐ろしいのはやはり人間か。


「どうするつもりだ。

 殺すつもりとは思えないが。」


 霊体AIは感情豊かに返事をしてくれる。

 だがここだけは濁したのは伝わった。



『あなたのパートナーになる。』


「はあ?やはりここの連中の情報欲しさか。」


『そしてあなたの観察。』


 この霊体AIが何を考えているのかわからない。

 下手に刺激は出来ないか。


『お互い情報は言わない方が幸せじゃない?

 仲良くくらしましょう。』


 他に干渉はしてこなかった。

 不審者達の誰かが転天を倒す算段でも立てたのだろう。

 なら乗ってやろう。

 中性的だが霊体AIの性別は問わない。

 このまま死ぬまで監視し合おう。


「互いにプライベートはのぞかせない。」


『防ぎきれると思える?』


「馬鹿にしない方がいいんじゃないか?」


『警戒する必要がないだけ。』


 少し生活に張り合いができた。

 このままただ死ぬだけで終わらなさそうだ。


 今日で今までの平穏は終わったが、楽しみは増えた。

 覚悟しておこう。

 転天は今後の波乱を予想し、油断せぬよう肝に命じた。

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