兄と妹たちの大三角関係〜下の妹を選ぶのですか！？ お兄様！〜

第13話 出会わなければ良かったのに

～サチ視点～

　これは中学生だった時のこと。

　新学期の新しいクラス。

　顔は見たことあるけど、あまり話したことがない子が横の席になりました。

「よろしくね」

「……」

「私はサチっていうの、よろしくね」

「……」

　反応が薄い……

　その子の最初の印象は、なんだか人を寄せ付けないような感じでした。

　少なくとも、わたしの顔を見てくれません。

　しょんぼり……。

「えっとね……平岡さん、でいいのかな」

「……」

「わたしのことはね、さっちんって呼ばれてるから、そうよんでね」

「……はぁ」

　その子は大きなため息をつきました。

　初めて、反応してくれました！

「ん？　どうしたの？」

「うっさい」

「がーん！」

　まさかの拒絶。

　ショックを受けました。

「うぅ……うるさくてごめんね」

　どうやらかなり嫌われてるみたいです。

「……」

「……その……」

「……」

　確かにわたしは嫌われてるのかもしれません。

　でも、今日はたまたま機嫌が悪いだけかもしれない。

　ならば、また明日話せば、仲良くなれるかもしれない。

　だから、わたしは出来る限りの笑顔で、そして柔らかく言いました。

「これからよろしくね」

「……（小さくうなずく）」

　それがミサキちゃんとの最初の出会いだったのです。

＊＊＊

　わたしがベッドで寝ている横で、ミサキちゃんが楽しそうに学校の話をしていました。

　わたしがどんな気持ちで聞いてるのかも知らないで。

「～～～～～が～～～～～で～～～～だったんだ」

　話がなんにも耳に入ってきません。

　昨日は本当に楽しいと感じていたのに、今日は楽しいと感じませんでした。

「あ……楽しくなかったかな……この話」

　わたしは反応しませんでした。

　楽しいかどうか――つまんないかどうか――

　どっちもノー。

　わたしには分からないのです。

「ほんとに大丈夫？　調子悪い？　熱とか」

　やめて

　触らないで

「……あはは、今日は調子悪そうだね」

　嫌がるわたしの表情を感じ取ったのか、ミサキちゃんは手をひっこめて離れました。

「さっちんがどんなに変わってもわたし……いや、何でもないや！

　また今度ね」

　そしてミサキちゃんは部屋から出ていきました。

　また今度……嫌だなぁ

　分かんないくせに、わたしのことなんか

　大好きだった友達に裏切られたわたしの気持ちなんて……！

　教えてよ、どうしてお兄様のことを教えてくれなかったの？

　……いや分かってはいるの。

　わたしとお兄様が兄妹だってこと、知らないんだ……きっと。

　だから何も言わなかった。

　つまり、前までのわたしと全く同じなんだよね。

　何も知らずに能天気に友達同士になって……

　お兄様の心の傷口を広げて、えぐった。

　出会わなければ良かったのに。

　友達になんてならなければ良かったのに……

　あの時、あなたに話しかけずに無視してれば良かったのに

　そうすれば、お兄様に嫌われなかったのに……

〜長男視点〜

　俺はすべてを破壊したい気分だった。

　理由は分からない。

　ただ、サチに俺の想いをぶつけた時から、ずっとそんな気分だ。

「こ゛ろ゛し゛て゛や゛る゛！！　こ゛ろ゛し゛て゛や゛る゛！！　あああああああ！！！」

　ベッドの中で、のたうちまわった。

　その間、ダクトの忌々しい顔が何度も頭の中によみがえる。

　そのたびに頭の中でそいつを八つ裂きにしてぶっ殺した。

　でも俺の怒りの炎が消えない。

　過去、俺はあいつを直接殺そうと何度も計画しようとした。

　でも出来なかった。

　怖かったからだ！

　ダクトがまた俺の人生に関わってくるのが怖い。

　またあいつの奴隷にされるのが怖い。

　そして何より……家族に知られるのが怖い。

　みっともなくて、情けない醜態。

　打ち明けられるわけがない。

　俺が、こんなみじめなキャラなわけがない。

　だから絶対に隠し通そうと思った。

　それなのに……サチがあの女を連れてきやがった！

　ダクトの妹……平岡ミサキ

　あの女を家の中で見た時は、背筋が凍るかと思った。

　見つからないように部屋に隠れて、一歩も出歩かずに息を潜めた。

　あの後サチに、慎重に、決して悟られないように、『あの女とどんな関係か？』を尋ねたら、『友達だ』と言いやがった。

——「イジメられて可哀想なゴミムシに見える」

　そんなことを言う女が、サチの友達らしい。

　そして何より、俺がダクトにいじめられていたことを知っているやつだ。

　女の口なんて羽のように軽い。

　もうサチの耳にも入ったことだろう。

　その上でなお、二人は楽しく笑い合っていた。

　俺のことを馬鹿にしてるんだって理解した。

　だから冷たく接してやった。

　好意には嫌悪をぶつけた。

　優しさには悪態で返した。

　サチが嫌がりそうなゲームで遊んでみたこともあった。（しかしそれは思いのほか喜んでいたので失敗ではあった）

　大切な妹だと思っていたサチが、俺を裏切ったからだ。

——でももし、それが間違いなんだとしたら？

　俺はピタリとベッドでじたばたするのを止めた。

　急に怒りが静まり返った。

　頭の中に突然浮かび上がった疑問に、答えが見いだせなかったからだ。

　……俺はもう、何が正しいのか分からない。

　サチに俺の怒りをぶつけたことが、本当は正しかったのか、それとも間違いだったのか——

　俺は——

　平岡ミサキに話を聞くことにした。