第5話 三兄妹の長男はシスコンじゃないかもしれないと思いたかった長女の悲しい勘違い

 前回の件で、さすがのわたしも少し大人になりました。


 お兄様は正義のヒーローのような人で、わたしのような悪い女の子には容赦しないだけなのです。


 それはつまり——お兄様はわたしとの接触禁止令を忠実に守っただけ!


 正しいのはお父さんお母さんのいうことを守ったお兄様。


 間違ってるのは、ちょっとズルをしようとした悪い妹。


 ……そう思う事にしました。


「でも今日から接触禁止令は解除! これでいつも通りお兄様と……」


 でも前のように明るい気持ちにはなれません。


「少しだけ控えめに……距離感が大事なはずです……」


 冷静になれ、わたし!


 冷静に……冷静に……


「もしかしてお兄様……妹に全く興味ないどころか、拒絶反応を起こしてるのでは……!」


***


~妄想~


「妹に欲情するとかマジありえねー!!

 アニメでも漫画でもゲームでもラノベでも妹がヒロインとか認めんからww

 現実の妹と恋愛とかはっきり言って犯罪だろ?」


***


〜現実〜


 少し想像しただけでも、気持ちがへこみます……


「……今日はお兄様のことは考えず、夏休みの宿題をしましょう」


 朝から勉強、お昼ご飯はコンソメスープで軽く取り、午後も集中。


 そして、お兄様と会わないまま、夕方になりました。


***


 部屋から出てリビングに行きました。


「あ……」


 お兄様がソファでくつろいでいました。


「お兄様……昨日はごめんなさい。その……無理に押しかけちゃって……」


「ああ、うん」


 申し訳なくて謝るわたしに、そっけなく対応するお兄様。


 でもそれはいつも通りの反応だったので、ちょっぴり安心しました。


「お兄様、お茶を入れてきますね」


「ああ」


 わたしは台所から、麦茶を入れたコップを持ってきて、お兄様に渡しました。


「はい、お兄様」


「……(ごくごく)」


 お茶を大人しく飲んでいるお兄様を見てると、私自身、安堵を感じました。


 前はわたしのせいで失敗しただけ。


 妹としての距離感さえ保てば、お兄様もきっとわたしを邪険にしないはず……


「おいしいですか?」


「ふつー」


 よかったぁ……


 わたし、普通にお兄様とお話しできてる……


 そんな感慨を感じてるさなか、リビングにエミちゃんが来ました。


「おにいおねえ、ママが風呂沸いたって。あたし後でいいから先入っていいよ」


「わかった。ありがとね、エミちゃん」


 そして去ろうとするエミちゃんに、お兄様が「待て」というのでした。


「何?」


「エミ―。今日は一緒に風呂入れ」


 ……?


「は……?」


 お兄様……? 何かの聞き間違いでしょうか……?


「風呂入ろうぜ。な?」


「……はぁ?? おにい何言ってるの??」


 き、聞き間違えじゃない!?!?


「子供のときは一緒入ってただろ? 入れよ!」


「それはあたしが幼稚園ぐらいの時だったからでしょ! 馬鹿おにい!」


「関係ない! 入れ! 一緒に!」


「それ以上同じこと言ったらぶっ飛ばす!」


「今日は一緒にお風呂入ろうぜ、エミー」


 どか、ばき、ぐちゃ


「変態! 変態! マジ変態! キモイ! キモキモ人間!」


「るっせ! 殴るんじゃない! お前の兄だぞ!」


 二人の乱闘を横目に、わたしはある真実に気づいてしましました。


——もしかしてお兄様って、普通にシスコン……?


 だとすれば、わたしにとって、信じがたい事実が浮かび上がってしまう。


——お兄様は、エミちゃんのことが好きで……わたしのことがきら——あああああああだめだめだめ!


 もし本当だったら、わたしの妹としてのアイデンティティがクライシスしてしまいます!!


「……そういえばわたし……お兄様と最後にお風呂に入ったのがいつでしたっけ……?

 わたしが小学生の時で最後だったような……

 ふふふふふ……あはははは……」


 そして二人がしばらく乱闘した後、エミちゃんは言いました。


「死ねクソおにい! もう二度と口きかないから!」


 そしてお部屋に帰っていきました。


「……たく、エミーの野郎」


「お……お兄様……」


「……あ?」


「わたしだったら……お兄様と一緒に入りますよ?」


「断る」


「——」


 ちーん。


 わたしは戦艦大和のように、完全に撃沈するのでした。

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