くらげ

谷井小鈴

くらげとあたし

 あるところに、くらげがいました、

と書こうとしてやめた。

 これじゃあまるで、昔話だもん。そうじゃなくてきっともっと最近の話なの。何言ってんだかあたし。あたし、なんでか、今とってもくらげの話が書きたいの。あたしはね、一応小説家。普段は雑誌に載せる小説なんかを書いているんだけど……ほんっとに唐突にくらげの話書きたくなったの。とりあえず今のは削除だよなぁ、とbackキーを押す。とんとんとん、と軽い音がする。さあ、もう一回。

 私はくらげ、んーと、ゼリーフィッシュの方が格好いいかな…なんだか、くらげって間の抜けた感じがしない?でも、ちょっとわかりにくいかなぁ、じゃあ海月はどうだろう。海の月、なんだか、いい感じ。じゃあ、やり直します。私は、海月。海の中にいるの。突然だけど、私は、怒ってます。最近ね、とってもゴミが増えたの。確か、プラスッチクってもの、これが特に深刻。海月だけじゃあなくて、海にいる私らみーんなが困ってるの。だから、私たち、人間が海からゴミを無くすまで報復します。わかってる、海月なんかに何ができるんだよ、って思っているでしょう?ちゃーんとわかってるから、教えてあげる。

 そうそう、こんな感じ。このくらげさんは、陽気だけどしっかり芯があるの。あたしはなんだか急かされるようにキーボードを叩いた。たんたんたん、たたんたん。

 私たち海にいるものはね、なんて言ったらいいんだろう、なんとなく話せるの、そうだなぁわかりやすくいうとテレパシーみたいなもの。だから、海月だけじゃなくて、やろうと思えば、ほんとに全員でおんなじことができるの。例えばね、私たちが、みんなにしばらく大陸には近づかないようにって言ったら、お魚が、全然取れなくなるってこと。困るよね。それだけじゃないの、海月って電気を使えるの知ってるよね。その繋がりでね、これは海月の中でもとっても珍しいことなんだけど、電波を扱える子もいるの。私がそれ。私がそのことに気づいたのは、三ヶ月ぐらい前かな。はじめは、周りの水を少しゆらせるぐらいだった。だけど、、そこから徐々に範囲を広げていって、一ヶ月後には空を飛ぶ鳥を自由に動かせるようにまでなったの(無理矢理、したわけではないよ!私はそんなにひどくないから!)二ヶ月後には、他の電波を遮ったり、妨害したり、逆に違うところに飛ばしたりできるようになった。そして、今の私は、えっと言わない方がいいかな、本当に聞きたい?きっと後悔するよ?それでもいい?

 あたし、なんだか頭がぼんやりしてきて、自分でも何を書いているのかわからなくなってきた。だけど書かなければって思いに急かされて、よくわからないままにまたキーボードを叩く。あれ、あたし、なんでこんなに真剣に、こんな話を、かい、て、るの、だろ……う、タタタタタ、タタタタタタタ指だけが勝手に動く。

 しょうがないなぁ、じゃあ言うけど驚かないでね。あたしは、今、人の脳を操れるの。と言ってもゆっくりゆっくりだけどね。脳に電波を送ってじわじわと思考を乗っ取っていく。この文章も、操った人間に書いてもらったの。教えてあげると言ってなんだけど、海月の、私たちの報復はもう始まっています。この文章を読んでいるあなたも、もうだめ、きっとなんだかぼんやりしてきたでしょう?ごめんね。こんなことなら、もっと何かしておけばって思った?後悔した?もし、そうならもう一度だけ、チャンスをあげる。もう一度、人間が昔みたいに、海を、この星を綺麗にしようと思うのなら、あたしはあなたたちをもとに戻してあげる。でも、それまでは、あなたたちはあたしのことを手伝うの。ほら、それまで人間を信じて待っていたらいいよ。同じ、人間だもんね、どうなるかきっとわかるでしょ?

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くらげ 谷井小鈴 @kosuzu_tanii

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