第6話 青い目のエティ
握られた手を凝視しながら、俺は少女の後ろを着いていった。
今は横顔しか見えないが、鈍い灰色の髪に被ったローブは質のいいもので、少なくともスラムの住人ではないだろう。
そもそも靴なんて履いてるやつがスラムにいるわけが無いのだが。
どこに行くのかは分からないが、久々の温もりがあまりにも暖かくて、手を離しがたかった。
青い目······青い目······。
先程俺の事を見つめた、真っ青な瞳について、頭から離れない。
なにか大切なことを忘れている気がして、記憶を
そう、確か。
ネーロの歌ってくれた物語の中に······。
「······青目の少年······?」
「え?なんか言った?」
「あ、いや······」
ちょっと待て。
そう、そうだ。
青い瞳で生まれたせいで、周りから引き離された少年がいて。
その瞳が女神の祝福なのだと同じく青の瞳の少女が言って。
そして二人は災厄を打ち倒して結ばれて、国を興した話があった。
彼らを祖とした国には、代々青の瞳の持ち主が産まれると、そしてその国こそ、この······。
「えっ、王女?」
「うん?なんて?」
まじまじと振り返った少女を見る。
そう言えばこの国には双子の王子と王女がいるらしい。
ベージュの髪の兄王子と、焦げ茶の髪の妹姫で、妹は兄よりも冴えない顔立ちで顔にはそばかすが撮っているんだとか。
街の人々が噂していた。
そして目の前の少女の顔には······薄くそばかすが散っていた。
······うん、まさかな。
ありえない······そもそも髪色は変えられるにしても、この年頃の姫君がこれほど髪が短いなんてありえない。
肩近くまであるが、ネーロが言うには諸外国の姫君は幼い頃から一度も髪を切らず、結い上げることもせず丁寧に手入れして、長く伸びた美しい髪を自慢とし、そして輿入れの際に初めて結い上げるんだとか。
だから普通、少なくとも背中辺りまでは伸びると思う。
いくら毎日抜けるからって床屋があるくらいなんだから、伸びるだろう。
そんなしょうもないことをぐるぐる考えているうちに、どうやら少女は目的地に着いたらしい。
ある建物の前で、少女は立ち止まってくるりと振り返った。
「ここだよ!僕の家」
そうして少女が指し示したのは、天高くそびえる王城······の敷地内の、貴族街に近い辺りに鎮座しているバカでかい御屋敷だった。
***
「改めて、僕はエティ」
目の前の質のいいソファに座る少女······いや、どうやら少年だったらしいその子は、可愛らしく小首を傾げて自己紹介を始めた。
「今お仲間募集中でね?ぜひ君に僕の味方······まあ家族、みたいな?のになって欲しいって思って」
「は、はぁ······?」
ぎこちなく腰掛けたソファが凄く沈んで動揺する。
ネーロから聞いたことはあったがまさかここまでとは······。
と、それよりも。
エティが言うことによると、今現在仲間を集めていて、俺をその中に組み込もうとしているらしいが······いや、だとしても何故俺なんだ?
「······お前、もしかして目が悪いのか?」
「お前じゃなくてエティ!君を選んだのは、君がスラムの子供だったからだよ。家がないからいなくなっても怪しまれないし、即日で雇えるし、闇ギルドの場所も知ってそうだし」
つらつら語られた俺の有用性に軽く面食らう、まあ、善意だと言われるよか信用はできるけど。
「だとしても······俺は黒だぞ?」
「うん······?」
首を傾げるエティ。
まさか本当に何も分かってないのかと、溜息をつきつつネーロから教わった魔王についての話をできるだけ平坦に、客観的に話した。
***
大昔、この世に現れた凶星、魔王。
この世の闇を集めたような黒い髪に、どす黒い瞳。
世紀を感じさせない姿をしていて、人々を恐怖に
黒髪黒目という色は、その頃魔王だけが持っていたものである。
英雄によって打ち倒された魔王だが、魔王の囲っていた女たちの間には子供が出来ていた。
それゆえ、今現在も黒髪黒目の子供が生まれる。
それは魔王の血族であり、先祖返りである。
だから、黒髪黒目の子供は殺さねばならない。
***
「······何その設定、知ってたけど知らない······」
エティは意味のわからないことをぼんやりと呟いた。
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