第28話<伊吹side>
「明日だよ。ついに明日」
今日は12月23日。ついに明日が千乃の誕生日兼クリスマスイブだ。そして、私と千乃の関係性を変える大事な日でもある。
「誕生日がクリスマスイブとか素敵ね親友さん」
「でしょ。クリスマスは私にとっては親友ちゃんの誕生日を祝うイベントだからね」
FPSゲームをしながら、コラボ相手に千乃の素晴らしさを説いていく。
「毎年クリスマスは親友ちゃんの手料理食べながら過ごすんだけどさ、去年は定番のチキンとかケーキだけじゃなくて、ビーフシチューを一から作ってくれてね。もう何時間も煮込んでたからいい匂いし過ぎて我慢するのが大変だったんだよ」
「ほー。あんたはその親友ちゃんに愛されてるんだね。あ、足音聞こえたかも」
「おっけー。…なんで今の話で愛されてるってなるの?」
一瞬でファイトを終わらせて、すぐに雑談に戻る。コラボ相手が同期の若葉だから、少し恥ずかしい恋愛系の相談も気兼ねなくすることが出来る。
「そりゃああんた。ビーフシチューを一から作るなんて言ったらとんでもない時間がかかるのよ。市販の元を使えばそこまで難しくもないけど、本格的にやると数日かかる料理なのよ」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「そりゃあ………私の彼女さんも料理が好きな人ですから」
「あー。なるほど」
若葉の彼女の茜は、私達と同じ事務所の後輩だ。時々料理配信をするくらいには上手いらしく、その茜の受け売りなら私と同じく料理技術が皆無の若葉がこんなことを知っているのも納得できる。
「だから、何日もかかるような大変な料理をクリスマスとはいえ作ってくれるなんて、愛がなけりゃ無理でしょってことよ」
「なる、ほど」
「照れてやんの」
「うるさいな」
なんとなしに自覚はあったけど、いざ他人から言われると少し恥ずかしくもなる。でももうハッキリしているだろう。私は千乃に愛されている。
はたから見たら私は千乃に溺愛されていると言っても過言では無いかもしれない。
普通に考えてただの幼馴染が通い妻なんてしてくれるだろうか。互いに学生の身分の頃ならまだしも、少し前まで千乃は残業もそこそこある忙しい企業に属していたのに、空いた時間の殆どを私の家で過ごしてくれていたのだ。その目的は私の為に料理をしてくれたり、溜めてしまっていた洗濯物とかをするため。そんなのただ仲が良い程度の相手にしてくれるわけがない。
: 照れてるの可愛い
: 普段クールなのに親友ちゃんの話になると途端に乙女になるのいいな
熱くなりかけた頬を手で冷やしながらコメントを見ると、予想通りのコメントが流れてくる。私がデビュー当初から千乃のことを常々話していたかいもあって、私のリスナー達は総じて千乃への好感度が高い。下手したら私よりも千乃の方が好きだって言うリスナーもいるかもしれないくらいだ。
そんなファンの皆だから、私も安心して千乃との出来事を配信で話すことが叶うのだ。
「告白成功するといいね」
「うん。……まぁ多分大丈夫だと思うけど」
私は明日のデートで、千乃にちゃんと告白するのだ。以前までの私は、自分の気持ちをちゃんと理解できていなくて、ただ千乃と離れたくないって気持ちに焦っていた。そんなだからとりあえず千乃と結婚すれば離れ離れになることはないって思って、千乃に結婚を強請っていたけど、今は気持ちが変わった。
まずはちゃんと千乃と恋人になりたい。そんな欲望が今の私の胸中を占めている。
今までみたいに一緒に暮らして、他愛ない会話で笑ってくれる千乃を見ているのも十分幸せではある。だけど、幼馴染や友人には見せることのない、恋人にしか見せられない表情を見てみたいと思ってしまったのだ。
もしも振られたらなんてことを考えたこともあるけど、そんなありうるかも分からない未来に怯えて足踏みしてなんていられない。千乃は世界一可愛いのだ。うかうかしていたら、千乃の可愛さに気がついた世界中の男が言い寄ってくるに違いない。そして千乃をフリーのままにしておいたら、どこかの誰かに呆気なく靡いてしまうかもしれない。そんなことは許されないのだ。
「まぁてなわけで、明日は配信しないから。リスナー諸君は寂しくケーキを食べておくれ」
: かなちい
: 親友ちゃんと配信してくれてもええんやで
: 告白成功したら親友ちゃんじゃなくなるな。彼女さんか?
「あー、確かに。もし成功したら呼び名変える?」
「いいじゃん。なんにするの?」
「どーしよっか。なんかいい案ある?」
: 嫁やろ
: まぁ一旦嫁か
: 今まで聞いた話だと嫁スキル高すぎるんだよな
「確かに。親友さんって家事万能だし、雑務まで手伝ってくれるくらい尽くしてくれる人なんでしょ?なんかただの彼女ってより、あんたの嫁か、もしくはママって感じよね」
: ママ。いい響きだ
: おぎゃる準備は出来ているぞ
「キモイから赤子に戻るな。その二択なら嫁のがいいわ」
: じゃあ嫁で
: 嫁。いい響きだ
「リスナー公認の嫁がいるVTuberも珍しいわね」
「そうだね」
私達はアイドル路線で売っている訳じゃないから文句を言われる謂れはないけど、それでも女性配信者は恋人の影がチラつくと容易に燃えることがあるのだ。私も若葉も事務所に入所した時に説明を受けた。本来なら明日告白してくるなんて個人ライバーでもない私が言うべきではないのだろうけど、ファンに恵まれたお陰で変に憂うことなく、安心して配信で話すことが出来るのだ。
: 明後日の25日は配信せんの?
: ワシらイブも当日もソロ?
「その日は告白が成功したら二人で配信するよ。配信無かったら失敗したって察しといて」
「じゃあ25日は配信待機しとかなきゃだね」
「そうしといてよ」
待ってくれている皆の為にも、絶対に告白は成功させたい。
配信終了後、まだ千乃が帰ってきていないのを確認してから部屋に戻って明日のプランを練り直し始めた。
まず第一に千乃の誕生日を祝うためにも、千乃が楽しかったと思えるようなデートにすること。その次に、私のことを意識してもらえるような展開に持って行けるようなプランにすること。
明日の目的地で
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