ポッキーの日ss(未来)
「今日ポッキーの日だってさ」
「なに急に」
2人で並んでソファに座ってのんびりとテレビを眺めていたら、食後だというのに伊吹がお菓子をキッチンから持ってきた。
「本当はポッキー&プリッツの日らしいけど。プリッツ君は忘れられて可哀想だね」
「……なに急に」
右手にポッキー左手にプリッツを持ち、交互に食べながら半分程欠けたプリッツに哀れな目を向けている。
「なんかあれだよね。プリッツってボケ担当だけ売れちゃった芸人のツッコミ担当みたいだよね。本当はポッキーとプリッツ両方の日なのに、ポッキーだけ出世しちゃってテレビ出まくってるけど、片割れのプリッツ君はテレビに出ても全カット。ギャラもコンビ内格差が生まれて…。可哀想」
「本当になんなの?」
黙って聞いていたが本当に意味がわからない。何故お菓子を見ながら悲しき芸人の性を語り出したんだろう。見たことも無いくせに、妙に心の籠った話し方だ。
「コンビニに行ってもポッキーは品薄なのに、プリッツ君は殆ど減ってなかったし。どこでプリッツ君は間違えちゃったんだろうね」
「知らないわよ。そんなに言うなら伊吹がプリッツ沢山買えばいいじゃん」
「やだよ。私ポッキーの方が好きだもん」
「なんだこいつ」
プリッツは減らないまま、ポッキーは2袋目を開けている。食後だししょっぱい系よりは甘いお菓子の方が進むかもしれないけど、折角買ってきたんだしプリッツも食べてやれよ。
「はぁ…。仕方ない。私が食べてあげるからプリッツ寄越しなさい」
「優しい千乃。プリッツ君良かったね。里親が見つかったよ」
「里親て。私そいつを捕食する側なんだけど」
「なんてやつだ。可哀想なプリッツ君。皆から忘れられた挙句、最後には食べられちゃうんだね」
「結末だけはポッキー君と一緒じゃん。良かったね」
およよと吹き出しが付きそうな嘘泣きをしながら、袋ごと押し付けられた。世の母親はきっとこれをやられるから肉付きがよくなるのかもしれない。
「美味しいけど、やっぱ食後は甘い方がいいな…」
プリッツも嫌いでは無いが、お腹いっぱいになるまで夕食を食べた後なのだ。正直封があいてないなら食べなかった。
「じゃあポッキー食べる?」
「……食べる」
自分のお腹のお肉を摘んでみて、後悔するだろうなぁと未来の自分を想像しながら頷いた。明日の朝早起きしてランニングでもしようかな…。
「いただきま……なにすんの?」
伊吹が手に持つポッキーを咥えようとして、トルコアイスの要領で私の元から奪われる。無様に開けた口は空を切り、恨めしげに目を開けばニヤニヤした伊吹が目に入った。
「なにって、折角だしポッキーに因んだゲームしようよ」
そう言って伊吹はチョコのついた部分を咥えて、持ち手の部分を私に向けてきた。
「ほぉっきーげーむだよ」
口にお菓子を入れているから上手く喋れないらしい。咥える前に言えばよかったのに。
「はやくー」
挑発するかのように私の眼前で上下に揺れるポッキー。それはまるで魚を騙す疑似餌のようだ。だが私は人間。こんな見え見えの餌には釣られない。
「あ、ちょっとー。折らないでっ……ん」
「うるさい」
ぷらぷらと揺れるポッキーを指で折って、文句を言う口は塞いでやった。
「もー。照れる千乃みたかったのに…」
「今更こんなことで照れるような仲じゃないでしょ。それに、したいならこんなまどろっこしい方法取らないで、素直に誘えばよかったのに」
「…ばーか」
照れて顔を赤くした伊吹も見慣れたものではあるが、もう何度も拝んた表情だというのに今でも私の心は激しく揺さぶられて、理性が効かなくなる。
唇を尖らせて拗ねたふりをする伊吹の手を引いて、2人の寝室に連れ込む。
昨年までの私達ならこんなこと普通に出来るようになれるとは夢にも思っていなかった。無駄にすれ違った去年の今頃を想像して思わず笑みが零れる。
「どうしたの?」
ベッドの上に横になって私を見上げる伊吹が不思議そうにしている。
「昔のこと思い出してただけ。伊吹が私に服剥がれて顔真っ赤にする光景なんて想像もしなかったなって」
「何言ってんの……もうっ…」
可愛らしく微笑む伊吹にもう何度目かも分からない口付けを落とし、部屋の電気を消した。
情事に及んでそのまま眠りについた私達は、翌朝に湿気りきったプリッツを見つけるのだが、それすらも笑い話になるのはやはり幼馴染兼親友から発展した関係だからこそなのかもしれないと、2人で笑ったのだった。
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まだ11/11日の深夜35時です。まだポッキー&プリッツの日です。
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