第4話

僕は、新しい職場で無我夢中で働いた。仕事の事以外は考えないように、とにかく働いた。すぐに仕事にも慣れた。いや、慣れてしまった。慣れてしまった結果、彼女の事を思い出してしまった。悲しい、辛い、どうしようもない。こんな思いを味わい続ける人生なんて嫌だ。


僕は、とにかく忙しくなるように、上司に仕事を振ってもらった。仕事が更に忙しくなっても、心の満たされない部分があるのを常に感じていた。


気がついたら僕は、連絡をしていた。彼女に。振られた彼女に。周りの目なんて気にしなかった。連絡を取り、会う事ができた。一晩を過ごした時は敬語ではなかった。今日は敬語だった。居酒屋でお互いの今の仕事の事を話したが、そんなのはどうでもよくて彼女と恋人との関係を知りたかった。まだ付き合っていた。心の満たされない部分がより深くなった気がした。辛い、淋しい、どうしょうもない感情が押し寄せてくる。彼女が眼の前にいるのにどうしようもできない。お酒の味も、食事の味もしない。彼女が、まだ恋人と付き合っている、それからの会話は記憶にない。居酒屋を出て、当たり障りのない挨拶をして帰ったと思う。翌日、彼女からはお礼の連絡が届いていた。当たり障りのない返事を返す事しかできない自分の弱さを、情けなさを悔やんだ。


心の満たされない部分が埋まることがないまま、僕は毎日を過ごしていた。仕事をしていても、遊んでいても、僕の心は満たされることはなかった。本当の恋が、本当の失恋がこんなに辛いだなんて、思わなかった。今まで僕が付き合っていた女の子たちも同じように辛い思いをしていたのだったら、僕は、全く気にせず、傷つかず別れてきた。なんて最低な人間なんだろうか。


新しい職場での出会いも、合コンも、彼女ほどの女の子はいないと思い込んでしまい、前に進むことはなかった。彼女以外とは付き合えないだろう。やはり僕の心は弱いのだろう。恋に耐えられる心をしていないから、僕は、今まで恋をしてこなかったのだろう。もし、風のうわさで彼女の結婚を聞いてしまったら、僕は、どうなってしまうのだろう。生きていられるのだろうか。


そんな中、彼女から連絡があった。ご飯を食べに行くことになった。もし、結婚の報告だったら、僕は生きていけるのだろうか。でも、このまま彼女を思い続ける人生ほど辛いものはない。結婚というナイフを僕の心の満たされない部分に突き刺してくれ。ナイフで埋めてくれ。埋まらない部分が埋まればなんだっていい。でも埋めてほしくない気もする。今回、彼女と会わなければ、彼女を思い続けることができる。会う予定をキャンセルしようか。理由は何だ、何がいいんだ。腹痛か、葬式か。ここでも情けない自分が顔を出す。情けない自分に負けないように、彼女と居酒屋での待合わせの日、待ち合わせの時間、待ち合わせの場所に僕は、いた。彼女は少し遅れるようだ。心臓が悲鳴を上げるほどのスピードで動いている。居酒屋に到着してから、ずっとこの状況だ。僕の弱い心が耐えられなくなるのか、心臓のほうが耐えられなくなるのか、はたまた両方が耐えられなくなるのか、いや、心も心臓もハートだから同じか、なんてどうでもいいことを考え始めたところで、彼女が到着した。どうでもいいことを考え始めた自分に気づいていたので、冷静なんだろうな、自分。

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