第29話 第四プラン

「『#原初焼べる光の焔硝コード レッド』、燃えて、燃えて、燃えて」


『ヤリナオシ結果:OK』

 一瞬で肉体を灰燼かいじんす炎。死んだ回数を数えるいとまはない。

 マーオの痛覚も消したとはいえ、本体が8割くらい燃やされると不味いらしいし、見ていられない。


 というか見えない、のが大変困る。


「『#    コード ヌル』、鎮火鎮火鎮火」

『ヤリナオシ:OK』


 走りながら着火しているであろうスライムを消火、そのまま一瞬薄目を開けてヤリナオシで修復。そして眼球はお亡くなり、はっきり言ってキリはない。

 プリティヴァから逃げて死んで、消火修復消火修復。たった二本の腕で、どれだけ時間が稼げるか。


「さっきから妙な動きをしているね。……何か考えてるでしょ」

「さあ、今は君のことで頭がいっぱいだ」

「さっきから右手をスライムに付けたままガニ股で移動しているのが関係あるのかな」


 まあこんな不自然な動きをしていたら突っ込まれるだろうよ。


「浮気ではないから安心してほしい。仮に浮気だとしても今回は目を瞑って欲しい」

「面白いモノが見れるならいいけど……貴君は死なないというか、死んでもすぐ生き返る体質なんだね。人間に見えていたけど、魔族なのかな?」

身体うつわは人間だ。よって今の状態じゃ君にタイマンして勝てる可能性がない。だから知恵を回してなんとかしようと足掻いている」

「そっか。がんばれがんばれ。じゃないとみんな無くなるよ」


 本当に全部なくなってしまう。なんなら迷宮ダンジョンの床や天井も溶けてきているようだ。くそう、プリティヴァが能力コードを一番最初に使用するタイミングに立ち会えたら勝機はあったのに。


「とはいえ、このまま同じ展開を続けるのはつまらないよね。そろそろ貴君を内側から爆破したらどうなるかとか、気にならない?」

「浮気の代償でかいな。いやしかし、それが君の望みとあれば仕方ない。爆発やむなし――」

「バクハツダメ!出来たから!……!?」


 手元のスライムからマーオの声。間に合ったかナイス!


「誰かな?どこから声が――」

「よそ見をしている暇はないぞ。だってこれから私が浮気の弁明をするんだからな。ということで」


 大きく息を吸う。肺の中、ただれた音で。


「新刊、いきまーーーす!」


 我ながらどうかと思う、場違いな言葉を叫んだ。




 ――――――――――――――――――――




 時は少しさかのぼり。


「第四プランで重要なことは三つだ」


 プリティヴァの元へ私を押し流していく

 マーオスライムに語りかける。


「第一に、

 我々の到達目標はマーオから魔素を完全に消した上で君と君の家族が地上へ逃げ切る引っ越すことだ」

「ヤッパリそうなる?第一プランは継続するのね」

「気づいてたか」

「ダッテ、アナタさっきからズットマーオの魔素を消すのやめてないもの」


 ベースは第一プランのまま。魔素さえ消してしまえればマーオ達は改造済み能力コードを保持したまま逃げ切れる。


「その際重要なのはもちろん時間稼ぎだ。君がプリティヴァに燃やし尽くされたら元も子もない」

「マーオに戦えと?」

「いや、私が出る。片手で魔素を消し、もう片手で君の身体に点いた火を消す」

「……勝てるの?」

「ううん。そもそも、今の私が今の状態のプリティヴァに勝つのは無理だ。出来ない」


 もし、プリティヴァが能力コードを一番最初に使用するタイミングで戦闘が始まれば、『ヤリナオシ』でプリティヴァの攻撃をなかったことにし、間合いを詰め『#    コード ヌル』でプリティヴァ本人を消すことが出来た。だが、今プリティヴァが発動している『#原初焼べる光の焔硝コード レッド』をヤリナオシで消すことは出来ない。何故なら。


、プリティヴァのコードを消せない。ダカラ勝てない?」


 そう、この身体うつわが直接見ていない事象はヤリナオシの対象にならない。


「さらに言えば、プリティヴァちゃんのフェス会場はゲキ熱だ。マトモに目を開けないだろう。そうなれば『ヤリナオシ』はアテに出来ないし、『#    コード ヌル』で火だって消せるかどうか」

「……ソレ、マーオ達逃げ切れる?」

「逃すさ、そのためには君の協力が必要だ」

「戦うんじゃなくて?」

「君にやって欲しいコトがある。二つ目の重要ポイントはソレだ」


 片手で魔素を消し、もう片手でマーオの身体に点いた火を消す。

 とてもじゃないが身体が足りない。だから。


「私を改造しろ。マーオ」

「……!」


 マーオの改造能力は選択能力オールコード に近い。

 選択能力オールコード能力コードそのものに「物語」を付随させることで、より強い力を引き出したり性質を変化させることが出来るもの。

 対して改造能力は魔族に「物語」を組み込むことで爆発的な力と有り得ざる性質を与えることが出来るもの。


「出来るか?」

「で……人間の身体改造はやったコトないわ。第一、マーオの改造には――」

「神話や御伽話じゃない、君自身が創作した物語を使用する必要があるんだろ。安心してほしい。そのための時間くらいは一人でも稼いでみせる」

「マッテ。それってアナタ、今からマーオに物語を作れと言ってるの?」

「そうだが」

「エー……」


 露骨に嫌そうな声を出すマーオ。何が不満なんだ。


「私のために私による私だけの新刊を書き上げるだけでは?」

「ダケ、が難しいわ。具体的にどうなりたいのよアナタ。アイデアもナイのに書けとか言わないで。執筆って、ラクじゃないのよ?」


 怒られてしまった。アイデアねアイデア。

 改造される目的。ひ弱な私の肉体に、目一杯手一杯必要なモノがあるからそれを軸に――


「ではこういうのはどうかな作家殿。むかしむかしあるところに3歩あるけば美女にあたる男がいてだな」

「そういう冗談ツマラないわ、マジメにやって。時間がナイのわかってる?」

「はい」




 ――――――――――――――――――――




 と、ブレインストーミングを経て現在いまに至り。新刊はどうなったかといえば。


「――カリカリ、クリクリ、モクモクと。

 高らかに謳いましょう。カラカラと紡ぎましょう。物知り顔の辞書が示す、恋の定義広義なれど。この身を生かす恋のイロは、アトにもサキにも一つだけ。『#cheat-insertコード インサート

 ――これを邪恋と呼びましょう」


 粘体スライムが7色に輝いて、私の身体はゾクリと熱を帯びだした。

 心臓より出で立ち身体を廻り指先踊らす原初の衝動は、まるでけらの血液のように。痛覚は消えているはずなのに、心を焼き尽くすようで。

 ――ああ、これが恋。なのか――?



「……わあ。あっという間に、見違えたね貴君。……ふふ、。面白い、面白いよ。これは13年ぶりに、楽しめるかも知れないね」


 ……プリティヴァちゃんに喜んでもらえた!ひとまず成功かな?よかったー!

 さーて、沢山の目と手で浮気の自己弁護始めるぜー!


 肥大した百足むかでのような肉塊には手が1500。目が10000。

 改造人間 多腕複眼機構ヴァーミナイ爆誕である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る