第28話 緋き消却のプリティヴァースキ

 分岐点は私がマチカを殺したこと。

 マチカは殺された後、一緒にいたエルフ……マーオが食べてしまったパナケアたんの人形について聞き込みを始めた。それによって竜族の動きが変わったことが彼女がここに現れてしまった原因らしい。

 マチカが魔王に殺されないルートを最優先でケンサクした結果、やられる前にやる作戦に至ったわけだが。

 その辻褄合わせでまさか学園最強とお手合わせとは。とんだ巡り合わせもあるものだ。

 まあでも、を使用したことによる影響ではなさそう。よかった。


「マーオ、あの竜族が現れたのは私の選択によるものだ。私が責任を持って対応したいと思う。彼女がいるエリアに案内してくれるか?」

「アナタが……連れてきたの?」

「いや、正確には君が食べてしまったそのエルフ型人形を追いかけてきたんだろう。丁度君が擬態しているその身体だ」


 マーオの身体を指さす。昨夜学園に潜り込む為に襲ったのが、たまたまパナケアの人形だったんだな。そしてそこに残っていた

『#原初操る光の雷同コード グリーン』の能力紋コード・プリントを追って彼女はここまで来たのだろう。


「オイカケル……?能力紋コード・プリントは出てなかったわ!」

「竜族は目がいいらしい。道具ナシで微細な能力紋コード・プリントを見ることが出来る生態だそうだ。運が悪かったな」


 だがまあ、イキモノが食べられた訳ではなかったのは不幸中の幸いか。


「ひとまず移動だ、頼む。その間にこれから君にやって欲しいことを説明する」

「エーレとレーメは……」

「二人については私と君が地上から降りてきた位置に誘導しておいてくれ。お引越しの時間だとな」


 第二、第三プランなんて初めからマトモに考えてない。カッコいいから第一プランって言ってみただけだし。なので急いで第四プランをケンサクして構築する。

『ケンサク結果:OK』


「よし、これより第四プランを解説及び実行する!現在進行形で考えながら喋るから矛盾があったら遠慮なく突っ込んで欲しい!」

「大いにフアンだわ……」




 ――――――――――――――――――――




 マーオスライムに全身を押し流され私は戦場へと降り立った。すでに迷宮ダンジョンは大火災。延焼だけでマーオは半分以上身体が蒸発している。

 さあ第四プラン始めだ。初手に最優先事項実行、男にはやらねばならぬ時がある。


「初めましてプリティヴァースキ学園長。私は貴方の伴侶となりたい男です。そんな男との運命的な出会いの日。もう祝日にするしかない。祝日といえば休日、休日といえば休日デート。デートと言えばルミエーラ王国セレニテ・ルマエ。つまり温泉デートしませんか。い〜い湯〜だ〜な。ズ・ズキュン♪」

「わあ、想定外の人間が出てきたな。タマータから共有されてはいたけど、実際に聴くと強烈だね。ところでそんな喋って喉焼けない?大丈夫?」


 いや大丈夫ではない。周囲を取り囲む猛火によって全身は焼かれ、目は沸騰し、息を吸うたび焦熱で内側から炭になっていく。

 痛覚がなくなっていてよかった。発狂する無様な姿をプリティヴァちゃんに見せるところだった。


「例え大丈夫ではなくとも君……プリティープリティヴァースキの前で泣き言は吐かないさ。だってノットプリティーだからね」

「ノットプリティーなんだね。それより貴君、赤紫の長い髪をしたエルフを見なかったかな。アレに用があるんだけど――」


 あどけないのに、声は結構低めなのがこう、グッとくる。顔が全く見えないのが残念すぎる。


「ガッツポーズの貴君。発言を訂正するね。おのれは赤紫の長い髪をしたエルフ型の人形を追ってきたところ、何処かで見覚えのあるモノが見えてきて、それどころではなくなったんだよ」

「改造魔族の魔素だな。結界は効果ナシ、か。もう竜族だけで魔王退治すれば良いんじゃないか?」

「ふふ、それだと意味ないからね。まあとりあえず見てしまったし、新入生もいるわけだから、この迷宮ダンジョンの改造スライムは駆除しておくつもり。おのれの炎で燃え尽きないと言うのなら、手伝うつもりはあるかな?」


 その改造スライムが魔王だとは夢にも思わないらしい。

 デートの誘いを断るのは実に心苦しいが。


「実に魅力的な提案だ。だが、今の私は人類の味方ではないのでな、協力できないよ」

おのれは竜族だけれど?」

「……ハッキリ言おう。私は魔王の味方だ。スライムを燃やし尽くすのはやめて欲しい」

「おや。まあ、そういう新入生がいてもいいね。多様性……というやつだよね」


 先約は、守らないといけないからな。


「じゃあ、平等に昇華しよう。出来るものなら守って見せなさい?」


 学園長直々、マンツーマン授業の始まり始まり。さあ、全力で望むとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る