Sideマチカ 聞き込み

「……」

「昨日ぶりですね〜警部さん?同行者の不手際で制服ひん剥いた受付嬢ライアちゃんに、何かご用ですかぁ?」


 このギルドで一番情報持ってる受付嬢について聴き込んだところ、コイツが出てきた。

 冒険者ギルドギルド・アノニムの受付と公衆浴場セレニテ・ルマエ番頭ばんとう兼任けんにんするルミエーラ王国の受付嬢において、

 売り上げトップ顧客満足度ワーストワンを誇るテラ悪魔。ライア・ダッチ。

 どの受付嬢に聞いても、悪い意味で情報通だから気をつけるよう警告されるとは。


「聞きたいことがあるんだけど」

「ん〜この後セレニテ・ルマエの仕事があって〜忙しいからまた後で」

「ほら手ぇ出せもってけ泥棒」

「話が早すぎません?……まあ、話の早いお客さんは大好きですけどね!」


 多めにチップを握らせてやれば、露骨に作り笑いを貼り付けていた顔が隠し切れない下衆げすの笑みに変わる。

 本当に現金だなこの女。同僚に嫌われるわけだ。


「で、何です?」

「昨日ギルドでクエストを受けたエルフについて聞きたい。もっといえば、一日で貢献値を100以上獲得したエルフだな」

「は〜い!少しお待ちを〜」


 チップを握りしめて、その場で誰からも見えるように照会を行うライア。さっくり個人情報漏洩してくれるな。まあ僕が賄賂わいろ握らせて情報引き出してるわけだし、彼女を非難出来ないけど。


「警部がこんなんだから司法が腐ってるだのなんだの言われるんだろうな。……やり方なんて選んでる時間がない……これは言い訳」


 そもそもカイを救うために警察に入ったのだから――


「やめよう」


 うん、やめよう。カイを言い訳に使うなんて馬鹿じゃないのか僕。

 僕は僕なりにベストを尽くすだけ。それ以上は考えない。今出来る最良を、全力で。


「は〜いお待たせ〜結果発表〜!独り言は終わりました〜?」

「……余計なお世話。で、どうだった?」

「結果は〜!昨日貢献値を100以上稼いだエルフはいませ〜ん!」

「いない、か」


 ビンゴ、訳アリだ。新入生のエルフに何かある。


「となると、もう一度タマータに新入生について聞かないとな……そもそもタマータが会場で合格者を集計していたんだ。仮に不正入学しているなら彼女にも容疑が――」

「そうじゃぞ、妾が集計したんじゃ。ペトロ・ポターというエルフについて、追加の情報を所望するのじゃ。ほい写真、ほいチップ」

「わ〜!嬉しい〜!なる早で調べまーす!」


 ……は?


「タマータ!?なんで!?」

「タマータちゃんじゃぞ。警部殿が入学式を抜けてしまったので追いかけてきたのじゃ!」


 いや確かに無断で抜けたけど、他の新入生だってやってたし。だいたい司会が抜けたら誰が進行するんだよ!


「連れ戻しにきたのか!?」

「んー、突然抜けられたからのー」

「あー急な仕事が入ったんだ。僕のことは気にせず入学式に戻」

「そんなことより、リハーサル中に警部殿がやけに新入生のエルフについて質問してきたじゃろ?あんなことされたら気になって気になって入学式どころではないのでな!捜査じゃな?協力しようではないか!」


 遠回しに、あくまで会話のネタとして自然に聞き出したつもりだったんだけどな。やっぱり聞き込みは苦手だ、改善しないと。いやそれより。


「何で協力するんだ、理由がなくない?」

「そんなの、急な新入生代表挨拶を完璧にやり遂げてもらった警部殿にお礼の一つでもしてやらないといけないじゃろう?未来ある勇士に祝福を……じゃ♡」


 探られている?……いや、単に面白がってるだけかも。竜族は滅茶苦茶長生きな分、常に娯楽に飢えてるとか文献で読んだ気もするし。


「……守秘義務があるから捜査内容は言えないけど。その上で協力してくれるなら正式に頼みたい」

「うむ!任せるがよい!して時にこのエルフ、どんな容疑がかかっておるのかの?」

「いやだから、捜査内容は」

「出ました〜!名前と顔で登録情報調べて見ましたけど、情報ナシ!コードの情報があれば確実だったんですけどね〜?」


 ギルド・アノニムは一度でもクエストを受けた人、或いはスタッフを冒険者という名称で自動的に登録するシステムになっている。

 名前が偽名でも、顔を整形しても、能力コード情報も登録されるから人違いはそう起こり得ない。

 現段階だとソイツの能力コード情報はないから、ギルドからこれ以上情報を集めるのは難しいか?


「となれば、地道に足で稼ぐしかないか。名前もわかってるし、顔写真もある。学園周辺で聞き込みを」

「確定じゃな。。アレは『#原初操る光の雷同コード グリーン』で操られた人形じゃ」


 ……新入生が、『#原初操る光の雷同コード グリーン』で操られた人形?


「『#原初操る光の雷同コード グリーン』?またうちのオーナーが人形遊びでなんかやらかしました?」

「まあそういうことになるのぅ」

「オーナー……パナケア」


 冒険者ギルドギルド・アノニム公衆浴場セレニテ・ルマエのオーナーを兼任けんにんする『255の命題クリティカル カウンター』の一人。『すい傀儡かいらいのパナケア・エゾニシ』

 昨日ライアを全裸にした時、別室で対応したのは彼女の操る益荒男ますらお人形だったか。


「確かに彼女は日々の激務から来るストレスで定期的に暴走すると聞いているけど。今回の不正入学がその暴走なの?何で?」

「それも含めて本人に確認するのがてっとり早いのではないかのー。受付嬢、パナケア本人にアポは取れるかの?」

「オーナーの人形じゃなくて本人?内線で聞いてみるけど、今日は難しいんじゃないかなー?」


 ライアは腰から下げたバッグから電子端末を取り出し、パナケアと連絡を取り始めた。

 そんなライアの手にした端末にタマータがずいっと顔を近づける。


「アポ取る時に一言付け加えてくれるかの、「昨夜汝の人形が図書室の機密区画セキュリティエリアから持ち出したモノについて確認したい」とな」

「ええ?何それ?オ〜ナ〜何持ち出したんですかあ〜?」


 うん、タマータは好奇心で絡んできたわけじゃなさそうだ。。何を知っているのかは、この後パナケアに尋問すればおのずとわかるだろう。……しかし。


「昨日何か事件があったなら、何ですぐにパナケアに確認しなかった?学園で不祥事はマズイだろ?」

「発生したのは昨夜じゃが、判明したのは今朝だったからの。というか、殿

「んん?」

「お、アポ取れたようじゃな。早速パナケア様の厚い面の皮を拝みに行くとしようぞ〜」


 色々と謎は多いが、ひとまずバックヤードに来るよう言われたらしい。パナケアの元に着いてから話を紐解いていくことにしよう。

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