第27話 第一プラン

「っっっ……!?」


 大きく身体が跳ねる、激しい動悸で目が覚めたようだ。全身から汗が噴き出ている。

 今のは朝見たのと同じ夢だと思うが。

 ……いや、違うのか?何が違った?何か、――


「あらまぁマーオったら、また食べ物であそんでいるのね?いやねぇマーオ。今日の人間はへんな匂いがするわよ?」

「おやまぁマーオったら、また人間の身体をまねしているのね?でもねぇマーオ。今日のそれは人間じゃないみたいよ?」


 フェアリー達の声がする。どうやら倒れてから30分弱、別室で寝かされていたらしい。

 まあ天井なんてものはないので隣室の声はほぼ漏れ聞こえてくるが。


「オキタ?」

「姿は見えないが、声的にマーオか。君達がいるそちらの部屋に移動してもいいか?」

「……マオウの家族もマオウのパーツも見せてあげた。モウいいでしょ?はじめなさい」

「まあそれもそうだな。先刻注意した通り、何が起きるか保証できないが始めるとしよう」


 今回この洞窟お家へ案内される道中、当然彼女の夢を叶える方法についてプレゼンを要求された。


「では予定通り、ひとまず私の能力コードで君の魔素を消す。完全に消せれば今後人間や他の魔族に一方的に追われる心配はなくなるだろう。後は引越し先で悠々自適にマーオ一家のスローライフ……というのが第一プランだ」

「ウン」

「ただ、本当に君の魔素だけ消せるかわからない。魔素だけじゃなくて、それを有しているスライム……つまり君だったり、君の中にいる私と君の家族もまとめて消える可能性がある」


 一応、ケンサク結果では少し時間がかかるようだが魔素だけ消せるというのは確認できている。

 ただ、『#    コード ヌル』はだ。

 今までは小規模な行使がほとんどだったから世界に影響はなかったが、多分。

 今回は迷宮ダンジョンひとつ分のスライムの全身から放出される魔素の消去だ。何か起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。


「デモ、ソノ場合は、アナタが『ヤリナオシ』?とやらでなかったことに出来るんでしょう?」

「できる。じゃなきゃこの方法は提案しなかった……あと、君の家族の状態を目視する必要があったのもそのためだし」

「トリアエズ、はじめていいわ。さっきアナタをコロせなかった時点でマオウに出来ることはナイと悟ったのです」


 気を失ってる間に殺されてたのか私。意識がなくとも機能は使用されるらしい。良い気づきを得た。感謝しよう。


「『#    コード ヌル』さて、どうだ?じわじわ魔素が消えている……と思うが」

「……ンー。ナンカ、チクチクするような?ジクジクするような?」

「どういう感覚なんだそれは、痛いのか?」

「ンーンー。これはソウね」


 部屋の扉が勢いよく開き、マーオが入ってくる。


「フツウに敵襲だわ。アナタが起きる前からマーオの中に入ってきていたから、イタぶって遊んでいたんだけど。時間があるならアナタも見る?」

「……遠慮したいが、拒否権はないように見受けられる」


 部屋全体にマーオの視覚情報が共有される。迷宮ダンジョンの一区画に、300はいそうなゴブリン、いやオークの群れだろうか。一匹ずつ丁寧に、全身をじわじわ溶かされて死んでいく地獄絵図が広がっていた。悲鳴と怒号の入り混じる混沌とした空間に、切実な嘆願たんがんが飛び交う。



『聞け魔王!我らここで喰らおうと、これ以上北部の森の同志を喰らうのはやめたまえ!』

『3000以上の魔族が行方不明になっているんだ!お前にしか出来ないだろう!?どうしてそんな酷い事ができるんだ!お前みたいな、たかが――ギャァアアア!?』



 歩みを進めれば足が落ちる。口を開けば内側から溶かされる。瞬きの間に首は喰われている。


「そんなに食べるのが好きか君」

「北部の森のコト?知らないわ、キョウミもない。でも、食べるのはスキよ」

「ちょっと雑食が過ぎないか、お腹を壊すぞ?」

「ソレはソウかもね。――酷い味だもの」


 マーオは彼らの決まった顛末てんまつなど、興味なさそうに目を閉じようとして――


「キャアッ!?」


 落雷に打たれたように突然その場でうずくまった。


「アツイアツイアツイ!やだ……やだ……なんて、ドコから!?」

「マーオ!――?」


 マーオの目には火が映っている。――否、だ。

 一瞬で迷宮ダンジョンが炎の渦で満たされる。魔王すら例外なく、ありとあらゆる魔族を燃やし尽くすほむら


「――何故、彼女がここに?」


 これが、を使用した代償か?

 本来ここには現れるはずのない人物キャラクターが出現している。


 どういう経緯プロセスで?どんな風に分岐ルートが変わった?

 時間はないが――サイケンサクするとしよう。

『ケンサク結果:OK』


 見えてきたのは、獣族が一人、竜族が一人、エルフが一人。ギルドを巻き込む大捜査だった。

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