Sideマチカ 入学式
「……は」
気がつけば僕は食堂にいた。
場所は、今朝あいつと食事をとった際に座っていた席。
ふと壁にかけられた時計を見る。
現在時刻は7時35分。ここで食事を取ったのが6時半。タマータに捕まったのが7時前後。となれば死亡時刻は7時半前といったところか。時間制限ギリギリまで戻されたらしい。
あいつが何をなかったことにしたかは不明だが、記憶がなくなったりはしないようだ。
おかげさまで死んだ時の記憶は鮮明に残っている。
「死ぬってあんな気分なのか。いや、痛くはなかったからな。少し違うんだろうけど」
僕の痛覚を消されたのは一番始めにあいつの腕を切った時だろう。あの時だけ何も起こらなかったから。
つまりあいつは本気で僕を
「え、痛覚なくなったまま?それは困……イテテ、戻ってるな」
頬をつねってみて、ちゃんと痛い。何が戻って何がそのままなのか基準が
「いやそれより、ほんっっっとになんにも報連相しないのめっっっちゃくちゃ腹立つ!なんだアイツ!」
急いで校舎裏に行ったところで、どうせあの男はいないだろう。……チッ。
もういい。あいつが好きにやるっていうなら、僕も僕のやり方で女神の
……しっかしあいつ。『不条理モラハラDV男ごっこ』だとか言ったか。不条理はともかく、モラハラとDVする男はあんな表情しないだろうに。ケンサクとやらが出来るというなら意味を調べ直した方がいい。
「ひとまず新入生代表挨拶の練習をしにいこう。タマータに確認することもあるしな」
いきなり現れたであろう僕に、ザワつく人間共を無視。体育館に向かうことにした。
――――――――――――――――――――
現在時刻は9時半過ぎ。入学式はつつがなく進み、学園長式辞に入る。
「はじめまして、試練を乗り越えし儚き命達よ、未来ある人類の灯火よ、入学おめでとう。
どことなく幼さを感じさせる顔立ちをした、少年のような竜の女性が壇上から僕達にそう語りかけた。
学園のトップ3
『
『
『緋き消却のプリティヴァースキ』の異名を持ち、竜族抱かれたい女性ランキング1位。
その堂々たる佇まいから溢れ出る爽やかな気品が、人間のツボなのだろうか?
「うん、話すこととか、あんまりないんだけどね。まあ話すよ。第13期アルコバレル学園の新入生、貴君ら32の限りある命。改めて入学おめでとう。こうして出会えて嬉しいよ。
この学園は魔王と戦うための教育施設だけど、それ以外もなぜか充実しちゃったから、退屈はしないと思う。
教職員、先輩、同じクラスメートになるこの部屋の、まだ見知らぬ誰か。強さとは、時にそういった絆から生まれることもある……と、今の
プリティヴァはそう言うと、春の爽やかな日差しのようにあっという間に壇上から去っていってしまった。
「はーい。さんきゅーがくえんちょー!という訳で続きまして新入生代表挨拶なのじゃ!警部殿ー!」
「はいはい……」
なんで僕がこんなことしなくちゃならないんだか。やるからにはベストを尽くすけど。重い足取りで壇上にあがり、新入生全体を見回す。
「アミュレッタ・ブラン・ルミエーラの愛満ちる今日という良き日に、私達はアルコバレル学園に入学いたします。本来なら32人集まるはずの新入生は急な仕事私用無断欠席諸々で15人しかいませんが、本日は私達のために盛大な式を挙げていただきありがとうございます」
そもそも入学式に何故新入生が15人しか来てないんだ。いやまあ僕も挨拶が終わり次第すぐ抜ける予定だけど。
「今までの私達は日々魔王軍の脅威に怯え、震えるだけでしたが。これからはアルコバレル学園の学生の一員として、互いに協力し尊重することで強固な絆を育み成長し、必ずや魔王を打ち倒したいと思います」
そんなことよりだ、リハーサル中にタマータから聴取した内容を思い出す。今年度の入学生について。やはり大半が人間だが他の種族もいると聞いた。獣族が一人、竜族が一人、エルフが一人。
「私も警察としての仕事と学生としての活動。両立させながらこの国に生まれた国民としての義務をこなしていきます。学園長を初めとした先生方、先輩方、どうか暖かなご指導をよろしくお願いいたします。以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます。本日は誠に――」
……そう、エルフが一人いるはずなんだ。そして僕はそいつに心当たりがある。
今この会場にエルフはいないが、2時間前に
なんらかの事情で休んでいるだけとか、そもそもエルフ違いで新入生じゃないとか、そういった可能性も否定出来ないけど、それも含めて情報を集めなくては。
「
模範的学生活動終了!ここからはエリート警部の仕事時間!さ、サクッとギルドへゴー!
いきなり壇上から飛び降りた僕に、
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