第24話 マチカを殺して

 必死に走って辿り着いたのは校舎裏。しばらくマチカも追ってこないはず。

 抱き抱えていた少女をおろして服を装着しなおす。


「悪いな、君の夢を叶えるまで警部に逮捕されるわけには――がっ」


 ズボンを履き、上着に片袖を通したところで地面に押し倒された。そのままギリギリとゆっくり、確実に、首を絞められていく。


「アナタは何時何処で誰にどうやってマオウのコトを知り得たの?コタエテ」

「君は何時何処でも誰にもどうやっても夢を語らず、たった1人で永遠に邪悪な魔王という役割ロールを続けるつもりなんだろ。私は女神の遣いだ。そんなこと、まるっと、おみと、お、し」


 ゴキャリと嫌な音がして首が折れた。

『ヤリナオシ結果:OK』

 すぐさまヤリナオシで直前の状態に戻る。


「――だっ!」

「ジャア、そんな夢っ!叶えられっこないのも!オミトオシでしょっ!」

「叶えられるさ、私はそのための道具だっ!」


 少女は首を閉めたまま、膝で肋骨を折っていく。折れた骨が心臓に刺さったらしい。

『ヤリナオシ結果:OK』

 肉体は傷一つ無い状態に戻った。


「っつ。そんなの、信用できるワケ――」

「わかってる、だから私だって覚悟をきめているとも」

「覚悟?なんのコト」

「見つけたっ獣族の鼻をなめるなよ!お前さっきの無断発光はどういう――」


 ああマチカ、きてしまったかこの時が。わかっている、覚悟はとっくに昨日の夜には決めていた。


「また私を追ってきたのか警察共め。私は人類でもない。魔族でもない。

「……!?」


 私の言葉に明確な動揺を見せたマチカをまっすぐ見つめる。

 私は今、ちゃんと彼女の敵になれているだろうか。


「それ以上逢瀬おうせを邪魔してみろ。

「――――そう。それじゃあ、僕を殺してみせろよ。女神の遣い」


 ――速い。マチカが一瞬で押し倒されている私の元へ飛んでくる。

 考えている暇などない、身体の上の魔王を思いっきり突き飛ばす。

 そのまま。


「『Ctrl+A#革命指爪化かすは鬼人オールコード チョコレート』!」

「『#    コード ヌル』!」


 マチカの鋭いツメが、私の腕を切り刻んだ。

あたりに血飛沫が舞う。だが、致命傷ではない。


「その程度か獣族代表。ならば、こちらから!」


 再び手の中に『#    コード ヌル』を込める。今度こそ、当たってしまえばマチカは。

 

「『#    コード ヌル』!悪く思うな!」


 能力コードを込めた左手がマチカに触れる――直前で消えた。


「『Ctrl+A#愛と眠れ知恵の王よ白き君よオールコード チョコレート』さ、大人しくしてもらおうか」


 突如、全身に強い衝撃が伝わった模様。横たわった身体が地面にめり込む音がする。

 マチカは能力コードで私の腹上に移動していた。その両足のカカトは内臓を潰すほど深く沈み込んでいる。


「その反応を見る限り、本当に痛くないのか。驚いた。じゃあ窒息で気絶狙いしかないかなっと!」


 鮮やかに一回転して距離をとるマチカ。見事なヒット&アウェイだ。ただし。


「確かに『#    コード ヌル』単体なら、当たらなければどうということないな。だがな、

「――何!?」


 マチカの移動にヤリナオシ。

『ヤリナオシ結果:OK』

 腹の上には、キックを決めた直後のマチカ。


「『#    コード ヌル』。君では私に勝てないよ」


 私は、

 体勢を崩したマチカを抱き止める。消えた右足の付け根からは大量の血が流れ出ていく。


「……お前」


 マチカは自身のなくなった右足と、私の顔を交互に見る。そして、驚愕きょうがくの表情のまま。


「……後で覚えておけよ」


 私はその言葉を脳髄のうずいの奥までしっかり刻み込んで。


「うん、わかった」


 酷く冷えた指先で、少女の頭を消し飛ばすのだった。




 ――――――――――――――――――――




「さて魔王ちゃん。少なくともこれで私が人類の味方ではないことがわかって貰えただろうか」

「……」


 身体うつわは返り血でベチャベチャだ。鉄臭い匂いが鼻を刺し、消えない記憶を刻んでいく。


「……アナタ、人類でも魔族でもないって本当?」

「ああ、訳あって人間の肉体を使用しているが、中身は違う」

「アナタは誰のミカタなの?」

「君の味方だと言えば信じるかい?」


 魔王は胡乱うろんな目を私に向けて、そのまま右足と首のない死体を一瞥いちべつした後、口を開いた。


「具体的なハナシがしたいわ。移動しましょう。ココだと能力紋コード・プリントでアナタが犯人だとバレてしまう」


 能力紋コード・プリントでケンサク。

『ケンサク結果:OK』

 能力コードは使用すると能力紋コード・プリントなるものが残るらしい。この世界では何か事件が起きると真っ先に能力紋コード・プリントを調べられて犯人特定されてしまうため、犯罪を犯す側は工夫が必要なのだとか。


「なるほど。君が昨日、私を殺しに来れたのは能力紋コード・プリントから能力コードの持ち主を追ってこれたからなのか」

「そうね。だからアナタタチ3人、順番に1日ずつ殺していってあげるつもりだったのに」


 ひゅー物騒。コレは今日中に和平条約を結ばなくちゃならないな。


「ナーンダ、仲間じゃなかったんだ。ジャア何でアラクネネをコロしたの?」

「魔族の味方でもないから。改造魔族などもってのほかだな。昨日2人に協力したのは利害の一致だ」

「フーン……」

「歩きながら話そう。こんな場所に長居は無用だ。さっさと魔王迷宮ダンジョン

「ソレも知っているのね。ますます恐ろしいわ。コロしてオシマイに出来ないなんて、まるでオトギバナシに出てくるカイブツのよう」


 少女魔王は歌いながら歩き出す。どうやら正門から堂々と学園を出ていくつもりらしい。

 現状の私が外に出たらどうなるか考えてくれ、という言葉を飲み込み、返り血に『#    コード ヌル』を使用する。

 そして、綺麗さっぱり洗い立てのようになったシャツを見下ろした。

 ふと胸ポケットに入れたハンカチのワンポイントと同じ模様が、視界の端に映る。


 それはマチカが着けていた首飾り。外から見えないよう服の中に閉まっていたモノが、首が消えた時に出てきてしまったらしい。

 随分と変わった形の――しおりか?どうやらマチカはしおりに紐を通して首から下げていたらしい。

 撥水はっすい加工がしてあるのか、赤い水たまりの中でも汚れていない。


「……バディを組んで早々に悪いな。少なくとも今日一日は別行動だ。新入生代表挨拶、後で聞かせてくれよ」


 マチカの胸にしおりを置いて。

 私は歌にいざなわれるように魔王を追うのだった。

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