第22話 朝ごはん

「はあー!?なにじゃあお前、女神に殺された男なの!?」

肉体ガワがな。中身は別モノだ」


 コレは隠す必要ないだろう。私は注文したサンドイッチをかじりながら、自身の身体うつわについてマチカに説明した。


「中身が別?じゃあ中身のお前は何者?」

「さあ、ケンサクしてもわからない。何となくわかっているのは、私はこの世界のイキモノが使用するための道具であることと、そのための機能と一緒に記憶も取りあげられたことくらいだ。まあ機能は昨日、1つ取り戻したが」

「んん、取り戻した?コードが増えたってことか?」

能力コードは女神の力だ。機能は私自身が元々所持している力」


 マチカは意味がわからないというようにフレンチトーストを切る手を止めている。


「そうだな、例えばこのサンドイッチをテイクアウトするとするだろう。そうすると店員が袋に包んで渡してくれる。この場合、袋が男、袋に刻まれたロゴが能力コード

「うん」

「中のサンドイッチが私。サンドイッチの中に挟まれたハムがケンサク機能」

「うんうん」

「昨日死ぬまではハムしかなかった。でも死んで女神からチーズをぶんどってきた。つまり今の私はハムチーズというわけだ」

「うんうんう……ちょっと待て。死んだ?」

「うん。1回死んだ」


 なんで!?と勢いよく立ち上がろうとしたマチカの肩をあらかじめ掴んで席に座らせる。いくら人が少ないとはいえ目立つのはマチカが望まないだろう。


「それ以外女神に会う方法が予想できなかった。あの女はこの身体うつわを大切に想っている。だから原型をとどめないくらい壊してみたら、おそらく……と推測したから死んでみた。ちょうど死ぬ機会デスイベントもあったし」

「原型をとどめないくらい凄惨せいさんに死んだのか!?いやそういうことするつもりなら昨日なんで僕に言わないんだよ!?」

「怒るから」

「……昨日の内緒って」

「死んでからすぐに女神が私を復活させると明言できない。そんな状態で、君の唯一の希望がこれから死にます。とは言いたくなかった」


 十中八九、肉体は復活させるだろうと踏んではいたが。時間を置かれたり、記憶に手を加えられる可能性はあったわけで。

 マチカに相談すれば、怒って他のやり方にしろと言われるのは明白だ。


「そもそもどのパーツも回収する段階で最低でも私は1度死ぬ。昨日最速で死んだのは女神から早急に回収したい機能があったからだ。実際、推測通り――」

「嫌じゃないのか、死ぬの。復活できるからって。怖くないのかお前は」

「……君が昨日、私の傷が開かないか心配してくれただろう?その時に痛いのは嫌なことを思い出した。だから、あらかじめ『#    コード ヌル』で痛覚を消しておくことができた。おかげで怖くはなかった」

「今も痛覚がないのか?」

「いや、復活した時に女神に修復なおされた。だからスネを蹴っていいぞマチカ。強く蹴っていいぞマチカ」


 責任取らせようとすんな、と言いながらナイフを動かすのを再開するマチカ。ただ、ナイフはかすかに震えている。これは怒りより、得体の知れないモノに対してへの恐怖か。むう、怖がられるのはちょっと。まだ怒られる方がいい。


「……いいかお前。自分を道具だと自称するのは別にいいが。お前が人型のイキモノで、血を流すし痛みも感じる以上、僕はお前を人間として利用する。だから今後は相談なく勝手に死ぬなよ。死ぬのは禁止だ」

「安心しろ。今はもう死ねないからな」

「もう死ねない……??」


 流石さといなマチカ。話が早くてありがたい。冷たい水を喉に流し込み、本題に入る。


「ん。結論から言えば。女神に機能を全て返してもらうことは出来なかったし、機能返却についての建設的な話も出来なかった。まだ君の想い人は救えない」

「……うん」

「取り返せたのは『ヤリナオシ』だけだ。これは発生した事象イベントの結果をなかったことに出来る力だ」

「それで死んだ結果がなかったことになると?」

「そう。私が死んだという結果が発生すると自動で使われてなかったことになる」

「……それ、カイの意識不明をなかったことに出来ないのか?」

「無理だ。なかったことに出来るのは長くて1時間」

「時間制限あるのか……」


 マチカはトーストを口に入れながら遠くを見ている。少し申し訳ない気持ちになる。

 女神と再会できた時。今後もえげつない絵面で死んでやると言えば『ヤリナオシ』は返ってくると踏んでいた。だが他の機能はどうやったら返してもらえるか脅迫材料がなかった。いや、その糸口を掴むためちゃんと話し合いたかったのに。


「何故か女神エルミニイを前にするとつい脊髄反射せきずいはんしゃで会話してしまうんだ。上手く機能を取り戻せなくてすまない」

「いつ何処でも誰にでも脊髄反射せきずいはんしゃで会話してるクセに何言ってるんだお前」

「確かに〜」


 あ、マチカに付け合わせのトマトを食べられた。そんなにお腹が空いていたのか……食べ盛りなんだな。キュウリも食べるだろうか、皿をマチカの方に寄せておこう。


「とにかく、現段階でもう一度女神に会う方法と、私の機能を取り戻す方便がない。それらが揃うまではパーツ回収に集中したいと思うが。構わないか?」

「並行して進めて欲しい。可能な限り協力するから」


 マチカが私の方に皿を戻してきた。む、キュウリは苦手なのだろうか。好き嫌いはよくないぞマチカ。


「わかった、善処する。では早速、協力してほしいことがある」

「早いな、何?」


 マチカに好き嫌いをなくしてもらわなくてはならないように。私も目的しごとのために、やり方の好き嫌いは分けて考えるとしよう。


「私は今この時から、魔王のパーツを回収するまで『不条理モラハラDV男ごっこ』を始めようと思う。なのでマチカ、豹変した私を怖がらないでくれると幸いだ」


 皿に乗ったキュウリをフォークで刺して、口に放り込む。目を閉じて、よく味わって。

 ――次にまぶたを開いた時。私はもう、マチカの敵となっていた。




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