第20話 女神の自白

「やっほう死んだぜ女神エルミニイィ!!!ただいまー!」

「おかえりなさいませだんなさま!ってばかーーー!!!」

「ぐふぅ!?」


 目覚めは幼女のドロップキックであった。帰ってきたぜ、女神の居住区転生前によく見る光景によぅ……!

 聞きたいことは山ほどあるが、ひとまず優先するべきは。


「さっそくで悪いが、君が奪った私の機能を返して欲しい」

「いやでーす。女神わたくしに呼び出しくらうために死ぬお馬鹿さんに返してあげるものなんてありませーん。……というか、ぶっちゃけ貴方どこまで思い出ふくげんしてます?もっと徹底的に壊すべきでした?」


 女神エルミニイは倒れた私の上に座り込み、不機嫌そうにつむじをグリグリと押しこんでくる。

 私は私自身のことについては結局、よくわからないままだが。少なくともこの肉体うつわについては1日体験かどうして理解できたことがある。


「壊せるものならやってみろ。壊れて困るのは君の方だろ?まったく、私の魂を恋しい男の身体に入れて


 そうこの女、自分で殺した男を諦めきれないからって魂を入れ替えて再挑戦リトライしたのだ。おぞましいことを考える。


「ちちち、違いますー!勘違いしないでください!こここ、『これで今度こそ女神わたくしのワンサイドゲーム。絶対に振り向かせてやるんだから!』とか、思ってませんしー!」

「だいたい、異世界転生だのなんだの何の冗談なんだ?お前が殺した男の望みだったのか?」

「……はい♡むかしよく話してくれたんです。異世界転生モノに憧れがあるって。だから、叶えてあげたら好印象持ってくださるかなって♡」


 男の魂はもうここにはない。この男が彼女の想いに答えることはない。では女神はどんな思惑で私の魂をこの男の身体うつわに入れたのか。


「君は見た目が同じなら中身が別物でも構わないのか?壊れた女神は実に狂った恋愛観をお持ちのようだな」

「はい?そのうち中身も同じになってもらいますから問題ナシノープロブレムなのです♡

だからさっさと異世界ゲームに戻ってくださいね」


 女神はタクトを振るような手つきで手元に半透明のパネルを展開する。そのまま操作を始めようとしたので。


「待てエルミニイ、このまま私を異世界に戻してみろ。大変なことになるぞ」

「へ〜具体的には?」

「待ってくれ今凄い嫌がらせを考える。時間をくれ」

「え〜それでは」

「エルミニイ!エルミニイィー!」


 まずいまずい。私の元の身体をどうしたとか、どうやって私を男の人格と統合してみせるんだやってみるが良いとか、色々とあるが。


「頼むよエル。君のためでもあるんだ。機能を返してくれ」

「……!」


 ん、む?何か、反応が違うな?


「……エルぅ」

「んにゅ」

「エル!」

「ぎゃー!やめてください!その顔でそんな、きゅるんと哀願されたら聞きたくなってしまうでしょう!?」


 効いてるな。いけるぞコレは!


「そこをなんとか!これから健やかに異世界生活して君の推し活に貢献するから!エル頼むよ〜じゃないと何度でも死んで君の元へお礼参りカムバックしちゃうぜ?」

「……ま、まあどうしてもということなら?一つ、女神わたくしのお願いを聞いてくれたら返してあげなくもなくなくないですよ?」

「なくなくない!してそれはどのような?」


 女神は私の腰の上でもじもじと恥ずかしがりながら小さな声で呟く。


「……今後は女神わたくしを、エルって呼ん」

「エルエルエルエルエルエルエルエルエルエル!10回言った!」

「どりんくわっとさいずぷりーず?」

「エムゥ!」


 いたっ、頭をはたかれた。

 と同時に自身の欠けた空白に一つ。落ちモノパズルがハマる時のように、カチリとした爽快感にも近いモノが頭から全身に伝わる。……これは。


「私が他の女のために機能を取り戻そうとしているのを、知った上で返してくれるんだな!さすが唯一神!最高だエルありがとう!!!」

「そうですね!女神わたくしったら唯一無二の最高神ですから!別に貴方が他の女にどれだけなびこうと最後に女神わたくしが選ばれればおーるおっけーですし!」


 女神は改めてパネルを操作する。ピアノを弾くように動く指先からピロンという軽快な電子音がなった。


「こほん、ではではだんなさま。

大人しく異世界盤面に帰ってください。そして願わくば二度とそんなやり方でココに来ないでください」


 あたりが夜明けのように白んでくる。どうやら舞台に戻る時間らしい。


「うん。これでひとまず世界観説明チュートリアルは完了というところだな。機能返却ありがとうエル。これでまた私は、。ではまたな」


 白い文字列が少女を飲み込んでいく。彼女は小さな手をヒラヒラと振りながら。


「……はい。さようなら。そのまま異世界ニワ女神わたくしの望む貴方になってください。もう一度、女神わたくしが――貴方に告白する機会チャンスを与えてくださいな」


 かくして私は自分の身体は何者なのか、ちょっとだけ理解した状態で異世界復活コンティニューさせられたのだった。




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