第18話 おやすみマチカ
「一番初めから魔王が持ってる女神の
「まあまあマチカ、まあマチカ。回収するだけなら、と言ったぞ。倒す必要はないんだ」
「盗むってことか?」
「話し合いで譲ってもらう」
「明日の入学式、キャンセルしとくな。退寮手続きもこっちですませとく」
いつもの冗談ではない。ケンサクの結果、
「いや、学園には入学出来ないと前提が崩れるからやめてほしい。とにかく私には私の考えがある。信じてほしい」
「……まあ、
「お、素直だな」
「ただ、具体的にどうやって回収するかは教えろ」
「む、何故だ?」
マチカは電子端末を持ちながらベッドに倒れ込む。その拍子に普段隠れているエメラルドの瞳があらわになる。
「今日、お前は『蜘蛛が村に出るから倒す』って目的だけ言っただろ?僕はその後具体的に倒す方法を聞かなかったから、お前が怪我をした。だから、今後はお前がどう動くか聞いとけば身の振り方を考えられる」
「驚いた、罪悪感とかあったのか君?」
「監視役としての責任だ!勘違いするな!」
マチカは一瞬声を張り上げてから、夜も遅いことに気付いたのか声量を下げていく。そのまま小声で話を続けた。
「で、どう回収するつもりなんだ結局?」
「内緒」
「は?」
「君を怒らせたくないから、内緒」
「はい?」
「例えば、『明日マチカに起きること』とケンサクすれば『入学式で事前相談なく入学生代表の挨拶をやらされる』というイベントがあることがわかる」
「はあー!?嫌なんだけど!?」
部屋着のマチカがベッドで暴れ出した。おろした金糸のような髪がシーツの上を縦横無尽に駆け巡る。
「そして、ここで私が『無理矢理壇上に上がりパンティを発光させる』と、『入学式を中止にできる』という自身が行動した結果もわかる」
「なるほど、つまり僕を怒らせるようなことをして魔王と対話するつもりだから言いたくないと」
「正解だ、おめでとう!」
「こいつほんっと……!」
とにかく、マチカには言いたくない。彼女を不本意な形で怒らせてしまうのは避けるべきだ。
「後から怒られるようなことをするために、今怒られてもいいと思ってるのかお前!?」
「まあ、それは可愛い怒りだからな。甘んじて浴びてる」
「つまりこの後僕に濁流みたいなキレ方をさせるつもりなのかよお前!」
「何をするのかバレたらな。安心しろ、今日は絶対吐かない」
「……しゅるるるる」
む、電話越しに何か聞こえる。怒りを通り越して
「しゃ〜、しゃ〜」
「もうお
「あっ、まっ、ばっ!待って!」
マチカが焦ったように私を引き止める。ふむ、おやすみの挨拶はしっかりしたい派なのかな?
「あの……さ」
「何だ?」
「あ……あー。いや、お前のコードだコード!カイを助けるために機能を取り戻す必要があるとかなんとか。取り戻すには何をすれば良いのか、教えろ?」
「あ、私の機能のコトか。安心しろ、この後
「会うって、お前。どうやって?」
「だから内緒だと言っているだろう。大丈夫だ心配するな。私は必ずカイちゃんを救えるように完成するとも。後は君が私を使って彼女を救え」
私が所持する
「明日は入学式だぞマチカ。寝るぞマチカ。おやす」
「まっっって!!!」
なんだなんだ、おやすみのチューはしてやれないぞ?
「あの……ね」
「何だ何だ」
「あ……あ、足!ちゃんと直ってるんだろうな!?明日突然傷が開いたりしないよな!?」
「傷そのものはスラゼリーで治っただろう。それとも、牢屋のスラゼリーで塞いだ傷が突然開く人災でもあったのか?」
「そんなのない!そんな事例は出てない!」
「じゃあ安心じゃないか」
「そう……だな」
仮に傷が開いてしまったとしても、『
……そうか、痛みが行動に支障をもたらしてしまうなら、その手があるか。
「ありがとうマチカ!」
「んえっ!?」
「というわけで寝ようマチカ。おや」
「あ、あー!お前っ!」
「さっきから何だ君。そんなに私をいびるのが好きか?」
「そうじゃなくて……!」
マチカはベッドにぺたんと座り込んで何やらモジモジとしている。指で髪をくるくるしながら唸ること30秒。覚悟を決めたように。
「マチカ、なぜ突然ビデオOFFにしたんだマチ」
「き、今日は蜘蛛から庇ってくれてありがとう!あと、カイを助けるのに協力してくれることも、感謝してる!また明日からよろしくおやすみっっっ!!!」
物凄い早口でそう言って、マチカは電話を切った。
「お礼を言うのにも腹を決めなくてはならないとは。難儀だな。……うん、おやすみマチカ。私も、覚悟を決めたよ」
――さあ、楽しい楽しい
――――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます