第17話 方針決定

「こんなに月の綺麗な夜。なぜ私は1人トキメキのないこんな部屋に閉じ込められなくてはならないんだ」

「自分が何をしでかしたのか忘れたのか?警視長殿の慈悲で捕まらないだけマシだと思えよお前」


 アルコバレル学園学生寮、入学生に与えられる部屋の一室にて。私は軟禁されている。


「まったく、なんで僕がお前のバディなんだ。女神の遣いを探させたと思ったら今度は女神のパーツを集めろ?ほんとあの人間、獣使いが荒い……」

「まあまあマチカ、まあマチカ。いいじゃないか。やるからには全力でベストを尽くすんだろう?」

「お前に言われると腹立つな」


 試験合格時にタマータちゃんから渡された電子端末。その画面越しにマチカの不機嫌な声が聞こえる。


「む、腹を満たして、風呂にも入って、後はぐっすり寝てまた明日。何が不満なんだマチカ」

「食事代も風呂代も払ったの僕だし、お前がぐっすり寝れるのも僕が学園に頼んで早めに入寮させてもらったからなんだけど」

「細かいことはいいじゃないかマチカ。それより今後の方針だマチカ。そのために電話をかけてきたのだろう?」


 マチカは私に食事を取らせ、風呂に連れて行き、部屋に放り込んで南京錠をつけた。その後、今後の方針を決めるため電話をするから1コールで取れよと脅迫してきたのだ。しかもビデオ通話である。とんだパワハラ上司を持ってしまった。つらぴ。


「ああ、というかそれを僕が聞きたくて電話したんだ。お前は女神のパーツの場所を知っている……あるいは、ある程度ならわかるんだよな?」

「……ん。ああ、まあな」

「なんか歯切れが悪いな。なんだ?」

「いや、まあ。というかマチカはアイソレから女神のパーツについて聞いてなかったのか?」

「女神のパーツどころか女神の遣いがどんな力を持っているのかすら教えてもらえなかった。守秘義務がどうのとかでな……今思い出しても腹が立つ」


 つまり、マチカは目的も教えられず女神の遣い探しを命じられていたのか。ずいぶんとアイソレにこき使われていたようだ。強い苦手意識を持っているのはそのためか。


「それでもマチカがアイソレに従うのは初恋の子を救うため、だな。女神の遣いなら救えると言われたか?」

「まあ。手段を選んでられないからね」

「……アイソレの目的は何なんだろうな」

「知らないよ、秩序の維持だとか綺麗事言って。ロクなこと考えてないよ絶対」


 確かに世界を正したいという願いは建前だろう。本音を聞き出すには、もっと関係性をじっっっくりしっっっぽり深めてからにしたい。マチカの時のように、事故で心を無理矢理暴くのは避けるのが無難か。


「ちなみに、『警察』や『女神特別捜査班』を作ったのは彼女か?」

「そう、アイソレが作った秘密組織だ。「警察」はなんでも古い神話における『秩序を保つ者』という意味なんだとか」

「この世界の古い神話か」


 ケンサクしてわかったことだが、警察や警部などの概念は元々この世界にはない。それらの概念はこの身体うつわが生前いた世界で生まれたものだ。

 だが、この世界では神話の言葉となっているらしい。この世界における神とは女神エルミニイのことを指すので、つまり。


「男のことを知ろうとして調べた内容をまとめたストーカーノートが後世に残ってしまったのかな?」

「まあ僕が読める範囲の神話を読む限りその可能性は全然あるな」

「マチカもそう思うか。ヤバいなあのヤンデレ女神」

「ヤンデレというよりは可愛さ余って憎さ百倍とかの方が合っている気もするが。まあ古い神話は言語も古くて全部はわからないから、実際は全然違う性格なのかもだけどね」

「古い言語がちょっとはわかるのか。流石だなマチカ」

「……まあね」


 マチカが画面から顔を逸らす、そのまま電子端末を持ってどこかに座り込んだ。背景から察するに、机からベッドに移動したのだろう。


「ひとまず、方針としてはお前と僕で女神のパーツを探して回収すれば良いんだよな」

「そうだな、回収の手段は問わないらしいが」

「1人が魔王、1人が比較的協力的とか言葉が出てる時点で他もロクな奴が持っているとは思えない」

「まあそうだが。ただ、1つ目に回収するのは決めている」

「え」


 そう、女神のパーツを持っているのは7人いる。つまり女神のパーツの集め方は5040通り。全ての分岐ルートを|ケンサクしてみて、私は1つの結論が出した。


「一番はじめに回収するのは魔王のパーツだ。

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