むかしむかしのひとでなし

 むかしむかし、とある王国に貴族と呼ばれる人間達がいました。

 彼らは探求心を人一倍もつ人類でした。特に能力コードの強化、応用、そして遺伝子の観点から全てのイキモノが持つ能力コードの原理を解明しようとしていました。


 彼らの研究により誰もが授かる女神の祝福、能力コードは様々な活用ができるようになりました。

 彼らの一番の発明は、特定の魔族の遺伝子解析、及び組み替えにより複写能力コピーコード貼付能力ペーストコードを持つ魔道具を開発したことです。

 つまり、その能力コードの使い手ではない人間でも、任意の能力コード擬似ぎじ的に使用できるようになったのです。

 これにより人類は飛躍的ひやくてきに文明水準をあげました。

 そんな彼らの功績を称え、君主様は王国の1区画に巨大な研究施設を与えました。彼らは、君主様の庇護ひごにより国税で研究を続けることが出来る特権階級となったのです。

 彼らは人類の英雄になりました。

 

 しかし彼らの探求心は行き過ぎてしまいました。

 人として超えてはいけないラインを超えてしまったのです。



 48年前、貴族達は禁忌きんきを犯しました。

 今のままでは人類は未来永劫新たな能力コードを顕現、進化させることはないと結論付けた貴族達は――

 犬や猫といった動物に人間の遺伝子を導入した「新しいイキモノトランスジェニック・アニマル」を創り出してしまったのです!


 さらに創り出しただけに飽き足らず、貴族達はその「新しいイキモノ」の異種交配や人為的選択を繰り返し品種改良を続けました。


 結果として「新しいイキモノ」は犬猫の短い寿命はそのまま。

 人類が持たない能力コードを持ち産まれ。

 人に懐きやすく人がいないと満足に生きることすら叶わない。

 ペット同然のイキモノとして作り替えられていきました。


 そして、彼らの研究は次のフェーズへと移りました。

 彼らは屠畜場とちくじょうと結託し、その「新しいイキモノ」を食肉として加工して市場に流通させ始めたのです!

 この肉を食べた人類の肉体に劇的な変化が現れたなら、新しいイキモノの有用性の証明に。

 失敗しても貴重なサンプルデータとして利用できる。

 彼らにとってこれは、意義のある実験テロだったのです。


 度し難き外道共の夢物語、倫理はとうに歴史の彼方に捨て置いて。

 真実は全て王国君主により隠蔽いんぺいされ、暴かれることも無く、貴族達はひたすらに創り殺し喰らい理想を追いかけ続けたのです――



 24年前、アミュレッタ・ブラン・ルミエーラがこの惨憺さんたんたる所業の全てを白日の元に晒し、実父君主に革命を起こすまでは!




 一切の慈悲もなかった無血革命の末、かつての英雄達は大量殺戮及び殺戮未遂の罪で消えぬ罰を背負う罪人として糾弾きょうだんされることとなりました。

 さらに、今まで部外者の侵入を拒み続けていた研究施設の捜査により、貴族達のさらなるとがも明らかになりました。

 今まで魔族の一種だと思われていたエルフ。その正体は、彼らが200年も前から北部の森に捨て続けていた人間のゲノム編集デザインベビー実験で生まれた失敗作。その中から突然変異体として生まれた人類の一種ポストヒューマンだったのです!


 これらの罪状――非人道極まる所業の責任を追及された貴族、及び全ての事実を知りながら隠蔽し続けた先代君主の国家は崩壊しました。



 そうして。みにくいい人類の欲望エゴにより創られ殺され喰われ独善の自由を与えられた「新しいイキモノ」は。

 新君主アミュレッタにより自由と「獣族」という種族名じんけんを与えられ、その短い生涯を全力で燃やしながら幸せに暮らしましたとさ。

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