第11話 マチカに怒られて

 現在時刻は14時。

 服のままお風呂にダイブした我々は緊急事態だったこともあり、少なくとも民家のお婆さんレディからはお咎めが無かった。

 そうして暖かいお風呂をいただいた我々一行はみんなで出来上がったお餅を食べましたとさ。めでたしめでたし。



 そんな訳が無かった。

 私はただ今民家の物置小屋で正座をさせられている。

 目線を上げれば、絶対許さんこの怒り風呂の水で流してたまるか慈悲はないと猫耳の先まで毛を逆立てたマチカが立っている。

 

「まあ、そういう日もあるだろう」

「まず住居侵入罪、次に軽犯罪法違反。そして僕の名誉毀損でトリプルアウトだ!!!示談はしない!今すぐ女神にクーリングオフしてやる!!!」

「マチカ、それは承諾しょうだくできない。私は蜘蛛と戦わなければならない」

「ああああもう!そもそもお前みたいな見境なしの猥褻わいせつ野郎の言うことが信じられるものかよ!」


 ダンッとマチカはその場で床を蹴る。まるで子供の癇癪かんしゃくのようだ。確かに今回は私に非がなくもないかもだが。


 この物置には現在私とマチカが2人きり。ファクトはお風呂で流してもまだ目が痛いらしく、民家で休ませてもらっている。つまり、マチカをなだめるのは私1人でやらなくてはならない。


「チッ、というかお前。本当に女神の遣いなんだよな!?」

「さあ?ここに来る前に女神エルミニイとはくんずほぐれつしたようなしてないような気もするが、遣いだのなんだのは聞いてないとおもうぞ。なにぶん夢見心地だったものでな」

「っ……お前!」


 胸ぐらを強く捕まれ持ち上げられる。体格差的に私を持ち上げるのは相当力がいるだろうに、よくやるものだ。

 マチカ、マチカ・ショートフォード。獣族の気難しい少女。そういえば私は彼女自身のことをよく知らない。趣味とか好物、どうすれば喜ぶとか嬉しいとか。なだめるにしてもまずはそこからか?


「なあマチカ、結局君たちが女神の遣いに何をやらせたいのか聞けずじまいのままここまで来てしまっているわけだが。女神の遣いが協力的ではない可能性は考えてないのか?」

「そこまで含めて見極めてこいって上司命令だ!協力する気がないならここでお前を緊急逮捕してやるからな!」

「それは困るわけだが。マチカ、なあマチカ。普通、誰かに協力をあおぎたいなら表面的でも友好的な態度をとってしかるべきじゃないのか?」

「ただのエロ犯罪者かもしれないヤツと仲良くできるか!」


 うーん、マチカからの歩み寄りを期待するのは難しいかもしれない。

 まあ、そういう媚びへつらいのようなモノが彼女にないのは好ましく思っているが。

 切り口を変えるとしよう。


「君、私のことが嫌いだろう?」

「僕がお前を嫌いなのは言わなくてもわかるだろ、何が言いたい!」

「そうじゃない。?というか君、?」

「それはそうだ、!?」


 ……ケンサクしてみる。

『ケンサク結果:OK』

 ――ああ、なるほど。


「確かに、この世界の人間は思ったより愚かだな。だが君はそんな大嫌いな人間の上司にやりたくもない仕事を押し付けられている。やめないのはなぜだ?」

「仕事だからだよ!好きでやってるか!」

「いや、人間に従ってまで仕事する理由を聞いているんだ。?」


 マチカの表情が変わった。夢があるのか、マチカ。


「教えるつもりは――」

「あると思うか?……時間の無駄だ。もういい、ここで《《女神の元に送り返してやる》!》」


 私を掴んだ手に力がこもる。否――コードがこもっていく!


「つっ、マチ――」

「うるさい!『Ctrl+A#革命指爪化かすは鬼人オールコード チョコレート』!」

「『#    コード ヌル』!」


 咄嗟とっさに発動したコードはマチカのソレとぶつかり合う。

 辺りは激しい光に包まれ、そして――




 ――――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る