第15話 再逮捕

 かくして私たちの戦いは終わった。ゴブリン200体強、約30分で蹴散らした。

 

 マチカは凄かった。修羅の如くゴブリンをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。どこか楽しそうに見えたのは気のせいだと思いたい。

 そんな、まるで誰かさんのせいで溜まっていたストレスを全部魔物にぶち当てていたなんて、気のせいだmaybe。


 緊急クエスト達成後、ファクトにお風呂で傷を塞ぐゴブリンの返り血を洗い流すよう提案されたが――

 念には念を、何が起こるか分からないので先に試験会場に戻ることにした。

 まあ、この後には何も起こらないことは知っているが。を使った影響が無いとも言えないので、懸命けんめいか。

 試験会場に到着したのは16時38分。かなり余裕のある到着だった。タマータちゃんには「コイツ今年の入学生になるのかの。来年ならともかく、今年か……笑えない冗談じゃのう」と苦笑された。んープリティ。

 しかし何をそんなに嫌がることがあるのだろうか?私がいるというのに?


 そうして私とマチカ・ショートフォードは無事、アルコバレル学園の入学試験を突破することが出来たのだった。




 ――――――――――――――――――――




 つまり、お待ちかねのエピローグタマータちゃんに求婚の時間である。……はずだった。


「おいマチカ。こらマチカ。これはどういうことなんだマチカ」

「見ての通り、最近開発された最新鋭のスライム牢だけど?」

「いや、そうではなくてな。なぜ私はそのスライム牢に拘束されているんだマチカ」


 スライム……なのかこれは。肌触りの良い水風船のような……このなんとも言えないひんやり感がクセになる。牢屋でなければもう少し入っていたいところだ。

 いやなぜ私は牢屋に放り込まれてスライムに身体を好き放題されているんだ。


「うん、傷痕治ったね。この高品質スラゼリーを塗り込むとどんな傷も跡を残すことも無く綺麗さっぱり消えるから、重症の容疑者はここに放り込むことになったんだよ」

「……容疑者?」


 はて、私は何か罪を犯しただろうか?

 さっぱり心当たりがないが


「それはそうだろう?この国の第二王女に猥褻わいせつ行為を働いたんだ、お前は犯罪者だよ」

「いやいや、女神の遣い候補だろ?最初にあった時、君がそう言ったんだろうに」

「女神の遣いだろうが何だろうが、この国にいる以上この国の司法で君を裁かせてもらう。そうですよね。警視長?」


 マチカの呼びかけに反応するように、ガチャリと牢屋の扉が開く。

 まったく誰だ、私はそろそろ求婚衝動が出そうなので美女を接種しなくては――!?


「お待たせ致しましたのマチカ。諸々の手続き終わりました、足止めありがとうございますの」

「んびゃAAAAAaaaaaaaaaa!!!???」

「うるっさお前!王女の御前だぞ!スラゼリー飲んどけ!」


 口にスラゼリーを叩き込まれた。マチカは優しくない。いいじゃんか運命との再会だぜ?少しは弾けさせて欲しい。


「……朝にもお会いいたしましたね。改めて、私、ルミエーラ王国第二王女アイソレ・ブラン・ルミエーラですの」

「ぶっ!ごぶっ!ぶぶぶ!」

「マチカ?会話が出来ないのですのよ?」

「したいですか?スラゼリー外しますか?絶対後悔しますよ?」


 地に舞い降りた星は、さらりと流れる銀の髪シルクを揺らし、輝く青い瞳スピカを細め、少し考えた後に首を振った。


「……こほん。マチカ、今日1日女神の遣い容疑者の監視、ありがとうございました。それで、どうでしたか?彼は?」

「ミネル村に現れた蜘蛛かいぞうまぞくの存在をそいつは事前に、完璧に予知しました。信じられませんが未来予知のコードを持っていると思われます。コード、ヌルだとか」

「ふむ、まあそもそも貴方がここまで彼を連行してきた時点で本物の遣いか、偽物の大罪人かの2択でしたけれど――それよりマチカ。彼は?」


 マチカは一瞬私に目を合わせ、そのままフイと顔を背けたまま答える。


「僕個人としては、その男のことは苦手です。……ですが、蜘蛛かいぞうまぞくと戦っていた時の言葉と目は――世界の秩序を保つ者として信じるに値するのではないかと思います。多分」

「……人間嫌いの貴方にそこまで言わせましたの」

「ぴゅっ、ぶっ!!!マチカぁ、なぜ私に直接言ってくれなかったんだぁ」

「勘違いするなよ!?そもそも初っ端お前が王女様の前でパンツ発光させなきゃマトモに話が進んでたんだよ!僕がお前の監視する必要なかったの!」


 そうだったのか。では私が第二王女の元に降り立った時点で確実にマチカと縁が出来る未来が確定していたのか。これもまた運命か……


「申し訳ありませんの。本物か偽物か不明な状態で我々女神特別捜査班に招くわけにはいきませんでしたから。……それに、本物であれば学園の入学試験くらい余裕でクリアできるでしょうから、そこも含めてテストのようなものだったのです」

「……」


 マチカがアイソレ様を怪訝な目で見ている。ふむ、言葉の節々から感じ取っていたが、マチカは彼女が苦手?嫌い?とにかく相性が良くないらしい。まあそういうこともあるだろう。


「時に、その物言いだと私はすでに女神特別捜査班に招かれたのか?もうメンバー登録されている感じなのか」

「あら、察しがよいですのね!はいそうですの。貴方はこれから我々女神特別捜査班の巡査でございますの!わーい!」


 アイソレ様がパチパチと手を叩く。可愛いな〜早急に結婚マリッジしたいしたいクッ、滑ってスライムが剥がれない……!


「まあここで加入を断ったら普通に強制猥褻わいせつ罪で送検するだけですが」

「するわけないだろうマイリデル。で、私は何をすればいいんだ?今は何でもできるわけではないが。あっ訂正わからない、君が私とマリアージュすればワンチャ」

「共に、集めて欲しいものがあります」


 アイソレは朗らかな笑顔から一瞬で真顔に切り替わり、一冊の本を広げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る