Sideマチカ 迷えるマチカと蜘蛛の糸
物置小屋を離れ、山道を歩きながら1人思う。
――悔しい。悔しい。世界が憎い。
僕はこんなに頑張ったのに。
カイに並べる友達になれるように、両親にも先生にも協力してもらってずっとずっとずっと!
なのに、なのに――どうして?
僕はただ、カイに――君の隣に胸を張って並べるようになった僕を見て欲しくて。それだけだったのに!
カイが目覚めなくなったあの日。空っぽになった僕に突きつけられた、1つの事実。カイを救うには今の技術では不可能だということ。
その事実を知った時、僕は決めた。どんな手段を使っても僕が、僕自身の力でカイを救って見せると!そのためなら文字通りなんだってした!
――そのためだと、女神捜索班に入れられた。
警察が探し続けている存在。この世界の秩序を保つ為に現れると予言される女神と、その遣いならカイを救うことが出来るかもしれないと、
胡散臭い、馬鹿馬鹿しい。そんなものにすら
そもそも占い師の予言なんてものすら信じてなどいなかった。
――実際にあの男に出会ってしまうまでは。
基本的に上から目線。いざ話し始めれば人を
それから、ケンサクと言ってたか。あいつには何か人には見えるはずのない――未来が見えている。
そうだ、ヨモギを摘んでいた時。村に蜘蛛が出ると。穏やかに淡々と、しかし一切笑うことなく、あいつが真剣に話していた時。
その瞳に覚えがあって。だからそんな話、信じてないのに、心のどこかで否定しきれなかった。
……ああそうだ。村を、学生隊を、救うと言ったこいつの目はカイと同じ自分ではない誰かを本気で救おうとする色をしていたんだ……!
なのにあいつは!カイのことは!救うことが出来ないって!
立ち止まって、手で顔を覆う。
違う、わかっている。僕の
……ああ駄目だ、やっぱり僕は。
大好きな人を僕以外が救うことを許せない。
あの男が、今は無理でもいつかカイを救うことが出来るのが許せなかったんだ!
手段を選ぶつもりなんてなかったのに、結局自分が彼女を救いたいという思いが消せてない。そんな自分が気持ち悪くて滅茶苦茶になっちゃう。
無理なんだ。どれだけ修行して強くなってもこんな醜い自分は変わらなかった。
僕は初めから、カイの隣にいる資格なんてなかったんだ――
僕はその場にうずくまり、顔を伏せた。
……僕はカイにもう一度名前を呼んで貰いたかっただけなのに。どうしてこんなに上手くいかないんだろう。
苦しくて苦しくて。
僕は、まだ見えぬ星に救いを求めるように顔を上げた。
2列に並ぶ8つの瞳と目が合った。
――。
声は出る間もなく。仰向けに浮く8つ目の女からだらりと垂れた白い腕が動いて――
「
l
+
A
#
」
――――蜘蛛が、飛んだ。
正確には、何かが猛スピードで僕の真上を通過し女の顔に激突した。
そのまま、女――女の身体に寄生した、異形の蜘蛛に激突したそれはしゃがみ込んだ僕の上に落ちてくる。
「……っ!?
――……え?」
思わず受け止め、抱きかかえたそれは相変わらず読めない表情で
「……ぶ、じ……か、マチカ。
……良かった」
そう言った。
現在時刻15時12分。
女神の遣いたる男のケンサク結果がここに顕現した。
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