第12話 マチカを追いかけて

「……なるほど、君の事情は大体わかった」


 女神に与えられた『#    コード ヌル』についての情報を更新しておこう。

 この能力コードは人の記憶を


「お前、今、今――」

「マチカ。人間とは比較にならない速さで過ぎる時間に、命を燃やして血の滲むような努力を続けてきた君。私を探していたのは――」

「やめろっ!お前が僕の何を見たと言うんだ!?何を」

「女神の遣いの力を使い、か。残念だが

「―― ――」


 私の言葉を聞いた瞬間、マチカは手を離す。べチャリと床に身体が解放された。

 少女はそのまま頭を抱え、声にならない声を出しながら物置の入り口へ駆けていく。


「だが――待てマチカ。話は終わっていな」

「黙ってろ覗き見変態野郎!お前が仮に女神の遣いだったとしても、頼るつもりなんてはじめからなかった!……ない、本当に……!」


 マチカは部屋の外に出て行ってしまった。私は1人になった部屋でサイケンサクする。16時までには村に戻らなくてはならないのだが。


「うーん。マチカを追うとして、さてどうしたものかな。この場合の最適解は――」

「いよーうナっさーん!警部さんとの話は終わった感じ?げんきーそうではないな、その様子だと」


 ファクトがゴミ袋を持って物置に入ってきた。ゴミ袋には大量に雑草が入っている。


「巡回はいいのか?サボると内申に響くぞ」

「サボってないサボってないよ!いやまあ、他のメンバーに巡回代わってもらってるのは否定しないけど……」

「学生隊のみなざぁぁぁん!!!隊長がサボってまぁぁぁす!!!!!」

「馬鹿!!!あ!あー!!!さっき警部さんがめっちゃ怒りながら山の方に歩いて行ったけどー!何があったの!?」


 ファクトは心配半分、好奇心半分で話を聞こうとしているようだ。なんとも平均平凡凡庸な学生らしい。

 仕方ないので先程のマチカとのやりとりをかいつまんで伝える。


「……というわけで、マチカの機嫌がさらに悪くなってしまった。どうしたものかと考えていたところだ」

「待って。女神の遣い?記憶を覗くコード?突っ込みたいことが色々あるけど……とりあえず一個いい?」

「何だ?」

「最低」


 まあ、許可なく記憶を覗くのは最低だったかもしれない。


「ちなみにナっさん。俺は今記憶を覗くのが最低って言ってるわけじゃないからね」

「む」

「警部さんにとっての唯一の希望のナっさんがノータイムで『無理です救えない』って言ったことが最低なの!」

「事実だろう?」

「事実でも!」


 ファクトは呆れたように、だが真剣に私に向き合う。


「とりあえず警部さん追っかけて謝ってこよナっさん!」

「謝る?」

「そうだよ!ナっさんの言葉で警部さんを怒らせたんだから謝らなきゃ!というか、怒った女の子には自分に非がなくともとりあえず謝っとくもんだ。今回はナっさんに非しかないけど」


 女の子を怒らせたなら謝る。むむむ正論!

 流石隊長先輩。もしや生前の私より恋愛経験値が高い可能性が……?


「だが村には蜘蛛が――」

「いいか、女の子との仲直りは蜘蛛かいぶつ退治なんかよりずっと大事なことだぜ。行ってこい行ってこい!」

「しかし――」

「まあ蜘蛛が出ても任せとけ!俺はアルコバレル学園の学生隊12期生、ミネル村の学生隊隊長ファクトだ!君の先輩になるものとして、全力で頼りになる所をみせてやるからさ!」


 だがな――いや待てよ?

 ケンサク結果で『村に蜘蛛が出る』。と出たので私は村で蜘蛛を迎え撃つ気であったが。

 ――もし、

 目を閉じて、改めて蜘蛛のサイケンサクを行う。

『ケンサク結果:OK』

 ……なるほど都合が良い、これなら。


「わかった、謝ってこよう」

「そうこなくっちゃな!へへーん。学生隊隊長先輩ファクトさんに任せとけって!」

「ああ、ありがとう学生隊隊長先輩。良い熟女を探しておく」

「感謝の印がそれかい!?というか年上っても限度があるからな!まあせいぜい10歳くらいなら……って何の話だ!」

「では行ってくる。全力は尽くす、結果を期待しておいてく……れ?」

「だから何故疑問系?不安になるだろもー……、彼女とちゃんと仲直りしてこいよー!」


 ファクトに見送られながら森へ歩みを進める。

 現在時刻は15時少し前。

 サイケンサク結果、接敵まで後15分。




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