第8話 女神の能力、その真価

「受験生か?悪いが僕達は今真面目な話をしてる。あっちに行ってくれ」

「いやいや、だからそのクエストをどうするかって話でしょ?警部さん達が受けるつもりがないんなら、俺たちが受けてもいいっすよね?」

「そういう話じゃなくて」

「うんいいよ受けて受けて!手続きはあたしがする!クリーンだから!何も怪しいところなんて無いんだから!」


 ライアがマチカとチンピラの間に割り込み、依頼書3枚をチンピラに押し付ける。

 ああ、このままではマズイな。場が混乱している間にあのクエストだけは受けなければ。


「待って欲しい、1つだけでいいんだ。私達にもクエストを受けさせて欲しい」

「はあ?警部殿ならともかくお前に?まあ仕方ないから別に1つくらいなら」

「君たちが毎年アルコバレル学園の入学試験を受けては落ち、その度に挫けず努力してこの日に臨んでいるのは知っているが。悪いな、譲ってもらって」

「「――あ!?」」


 アルコバレル学園の入学試験は受験費タダ、さらに年齢の上限がなく、コードの質も問わない、そして毎年何度でも受験することが可能であると受験条件が緩い。なので当然このように何度も試験を受けるヤツもいる。


「てめぇ、初めましてだよなぁ?なんでそのことを知って――」

「試験内容は毎年固定だ。貢献値100以上を時間内に獲得して学園に戻ってくること」

「まあ、そうっすけど?それ今何か関係あ」

「コードの使い方が下手な君たちチンピラABはクエストを達成する時間が圧倒的に足りない。だから合格できない。そうだな?」

「「ああ?」」


 チンピラABに囲まれてしまった。なんか凄まれている気もするが、続けるとしよう。


「貢献値の高いクエストは例外……特殊コード持ち専用クエストや魔族退治もあるものの、基本的にダンジョンでの狩猟、及び納品クエストであり1回1回の所要時間が長いものが多い。8時間では達成が難しい。スラゼリーは君たち向きじゃない」

「「あああ?」」

「やるんならゴブリン退治に縛るべきだ。転移系ペーストコードを使い背後を取ってしまえば難しくはない魔物みたいだからな。早く倒せれば追加の貢献値ボーナスも貰えるかもしれない」

「「あああっん普通に助言!」」」

「何、君たちのポテンシャルは低くない。必ず結果を残せる。ブイ」

「「あああっん普通に腹立つ!」」


 応援終わり。じゃあクエスト受けるか。私は狙いの依頼書を掴――めない。チンピラAに避けられた。


「まてまてまておいおいおい」

「何だ?」

「違うし?全然、違うし?俺たちは実力はあるけど、安全に試験を突破したいだけだし?」

「そうだそうだ!BレベルやCレベルクエストでの狩猟は死ぬほど強くはない敵がほとんどっすから、コツさえ掴めば1回のクエストが2〜3時間で達成できるっす。つまり超安牌だから受けてるだけで、じじじ、自信がないとかそういうんじゃないっす!」


 自信がないのか。実力はあるのにもったいないな。じゃあクエスト受けるか。私は狙いの依頼書を掴――めない。チンピラBに阻まれた。


「そもそもアンタも多分俺らと同じっすよね!?」

「何が?」

「コード強くないの!あーあ、警部殿だけなら、SレベルとかAレベルかつ貢献値が100以上のクエストを1つ達成すりゃ終わりなのに」

「私のコード強いぞ多分」

「「マ!?」」


 そういえば女神エルミニイ能力コードをもらったんだっけな。使っていなかったか。


「見てみるか?」

「「えっいいの!?見たーい!!!」」

「おいコラ人間ども。僕を置いてけぼりにして話を進めるな。それはそれとして女神の遣いのコード……確かに気になるな」

「マチカ……やらしっ」

「監視役としての、し、ご、と、だ、よ!」


 マチカに乱暴にハンカチ目隠しを取られて。そのハンカチは私のスネに巻かれた。そのままスネを蹴られた。そんなに責任を取りたくないか。


「じゃあ、使ってみ……ます?」

「なぜ疑問系なんだお前」

「だって、使?」

「……は?」


 いつのまにか辺りには警部とチンピラの揉め事に吸い寄せられたであろう野次馬がいる。

 いい機会だ、お見せしてしんぜよう。


 ――装填するは『空』、放つは――



「『#    コード ヌル』」



 掬うようにした指先に、見えない『何か』が滞留する。これが私のコードなのか。

 嬉し恥ずかし能力コード初体験。結果で言えば――何も、起きなかった。



「……お前。何もおきてなくないか?」

「ぷぷっ!あんた、あれだけ大口叩いておきながら実際にはなーんにも出来ないなんて!ダッサ!」


 水を得た鯉のようにぴょいっとライアが跳ね出てきた。元気が出たようで何よりだが。


「いやいや、あれだけ自信ありそうだったし。これから何か起きるんすよね……あんた?」

「ないない!あはは!ざ〜こ!みっじめ〜!無能なのにイキって恥ずかしく無いんですか〜?大体何その手!その手の中に何かあるって言うんですか〜?」


 『何か』はあるのだが。困ったな、この『何か』を消すデリート方法がわからない。こんなポーズで固定されては今後求婚プロポーズ出来ないではないか。


「あ、皆さーん!見てくださ〜い!この男『コード強いんだぜ?ヤバいんだぜ?』とか言っておきながらコレですよコレー!手の内にはな〜んと!……なにもないんです〜!ホントヤバ〜い!」

「!?まてライア、に触るな!」

「なになに?空気を掴みましたー!とでも言ってみるつもり?バッカじゃないの?あ、そうそう。恥晒しついでに、あたしにここで土下座でもすればクエスト受けさせてあげなくもないけ――」


 ライアの指が『何か』に触れた瞬間だった。群衆は一斉に口を閉ざした。その視線は一様にとある受付嬢へ。

 かくいう私も例外ではなく、思わずその発育途中の健康的な女体に釘付けになっていた。

 

 そう、瞬きの間に。『何か』に触れてしまった愛らしいふんどし娘は。衣擦きぬずれの音もなく一糸まとわぬ姿に早着替えしてしまっていたのだった。




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