第5話 試験開始

「此処におる物どもは試験概要など知っておろうが、まあこれも決まりじゃからの。

 説明するぞ、試験時間は9時から17時まで、その時刻内に汝らの拳に刻まれたを100以上にしてこの会場に帰ってこい。以上!」


 会場に流れるピリピリとした空気。沈黙する受験生。猿轡さるぐつわで転がされた私。

 動けなくて暇なので貢献値なる異世界概念をケンサクしてみる。

『ケンサク結果:OK』

 貢献値。その問題を解決することで救われる生命の指標を表したもの。この世界の冒険者ギルドで用いるモノだが、なるほど学園の入学試験に転用しているのか。 

 

「質問があるなら後で妾のところに来るがよい!まあ後5分で試験開始じゃからそんなことをしている暇はないと思うがな!

 せいぜいギルドに駆け込み貢献値の高いクエストを受け、瞬きに命を燃やせ勇士達よ!」


 ――始まる。

 人々の瞳が見つめる先は一点だけ、今にも動き出しそうなその身体が彼女の一声で解放される時を待つ。


「――告げる。我が声よ、刻むがいい。未来ある勇士に祝福を!

 『Ctrl+V#評定する生涯の真価ペーストコード シスル』!」


 高らかに歌い上げられた言葉と同時に、私の左手が熱くなった。その甲には先程の受験番号の下に、新たに「0」という数字が刻まれている。


「さあ!行くがよいのじゃ!ここで妾は汝らが足掻き這い上がってくるのを楽しみに待っておるぞ!」


 タマータちゃんの激励げきれいを聞き終わらないうちに、周囲の人々が一斉に出口に向かい走り出した。取り残される私とマチカとタマータちゃん。


「で、貴様がくだんの不審者じゃな?真面目に試験を受ける気は――無いように、見えるがの?」

「むぎゅ、むぎゅむが、むがががが!」

「外すかい?後悔するよ」

「試しに後悔してみようかの」

「……ぷはっ、お嬢さん。ズキュンと来たよこのパンティに。良い大人同士、結婚マリッジを見据えた真剣交際といかないかい?」

「おお!本当に後悔出来たぞ!よし警部殿、戻しといてくれ〜」

「んぐぅ!」


 仮にも女神の遣いに対してこの扱いとは。よほどエルミニイという女神はこの世界で信仰されていないに違いない。

 日頃の行いを改めて欲しい。私のためにも。


「さて、それはともかくとしてじゃ。獣族のうら若きエリート警部殿は試験、参加するのかの?」


 マチカは私と、マチカ自身の左手に刻まれた数字を一瞥いちべつし、ため息を吐いて答える。


「上司からコイツの監視を命じられちゃったからね……まあ、やる以上はベストを尽くすさ」

「ああ、2番目の。つまらない方の人間様にいいように使われとるのか可哀想に」

「むが、むがうむがむが」

「しかし服を貫通する勢いで下履きを発光させる奇人が受験していた……などと噂が立っては学園の品位に関わってくるのだがのう」

「悪いね。文句は上に伝えとく」


 なるほど、学園試験編チュートリアルときたか。

 まあこれも、未だ見ぬ婚約者。これから出会う愛しのハーニィ↑を探すための苦行と思えばなんのその。


「というわけで、ええと、貢献値を100にしてくればいいんだっけ?」

「何、100と言わず200でも300でも稼いできて構わんぞ?」

「ぷはっ、ふっ。200でも300でも、君のためならいくらでも溜めてこよう。全く、入籍前から貯蓄の心配なんてタマータちゃんさんはお茶目だな。それともコレはアレなのか?タマータだけに、貯金タマー」

「いつの間に布取ったんだお前ってか動きキモイ!やめろくねるなぁ!」

「ああん……」


 マチカに蹴り倒された。暴力には反対だが、せめてなぶられるならタマータちゃんがいい。あの尻尾で雑にぎ倒して欲しかった。


「それでは妾はこの後予定があるでな。警部殿の健闘を祈っておるぞ〜」

「こんなやつが、本当に遣いなのか?女神は何を考えているんだ……。はぁ、大人しくギルドに行くか……」


 ということで、不可解なことに変態の汚名を一身にうけた私と、頭が痛いらしいロリ警部マチカはアルコバレル学園から併設された冒険者ギルド――ギルド・アノニムへと向かった。

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