第4話 逮捕

「ふむ、失敗したようだ」


 学園内の小さな会議室に連行された私は無理矢理服を着せられただけに留まらず、手足を縛られ椅子に座らされていた。 


「不合格の理由を考えなくてはな、トライ&エラーは合格率の上昇に不可欠だ」

「トライしようとするな!現状わかってるのか!?パンツ発光させながら王女に迫って逮捕されてるんだぞお前!」


 声のした方に目線をやる。そこには仁王立ちの小柄な猫耳少女が1人。その金の髪の隙間から一瞬隠れたほうの瞳が見える。

 ――色が違う、見えているほうは髪と同じ眩い金色だが、隠れているほうはエメラルドのような緑色をしている。


「よくぞ私の求婚を邪魔してくれたな金髪猫耳メカクレツインテール。報奨金目当てか?いくら欲しい」

「邪魔も何も、仕事で変質者捕まえてんだよこっちは。あとお前が金銭を所持してないことはさっき身体検査で確認済みだ。無一文ができないことを言うものじゃない」

「身体で」

「払わせるわけないだろうが変態野郎!」


 少女は頭を抱えながら私の正面に置いてあった椅子に座り、電子端末タブレットの操作を始めた。なるほど、お見合いの時間のようだ。


「お前、名前は?」

「ない」

「ナイか、ふーん。出身は?」

「グイグイ私のプライベートを詮索してくるじゃないか。私は君ぐらいのよわいの女性には惹かれないのだが。しかしここで健気なレディを冷たくあしらうのは私の信条に反する。と言う訳で私からも質問だ」

「何を言っているんだお前は、今尋問されてるのわかってるのか?」


 少女は露骨に私を睨む。女心とは、やはり難解で解読しがいがあるものだ。ウキウキしてきたぞ。


「では私は君をなんと呼べばいい?子猫キティたん、と呼んでしまうぞ?」

「キモっ!?……ちっ、僕はマチカ。マチカ・ショートフォード。女神特別捜査班の警部だ」

「女神特別捜査班か、なるほどマチカ、マチカいいね。君によく似合う可愛らしい名前だと思うぞマチカ」

「よし、もうチマチマ探るのはやめよう。単刀直入に聞くぞ」


 少女……マチカは、私の左手を乱暴に掴む。手の甲にはいつの間にか見慣れない赤い数字が刻まれている。


「お前女神エルミニイの遣いだろう?」

彼女エルミニイが私をこの世界に転生させたことを遣わせたというなら、それはそうだが。その数字と何か関係あるのか?」

「いや、これは受験番号だ。……そっちじゃなくて」

「ああ、この指輪についてか」


 マチカは無言で頷くと、端末を操作し私の前に提示する。



『女神の遣い、空より来たる。左手薬指に愛の証付けたし男。下穿きをいと眩く輝かせ王女を呼ばふ』



「3日前に隣国の凄腕占い師とやらが女神の遣いについて予言をしたんだよ。まあ僕は信じていなかったんだけど――現れただろ」

「なんだそいつは変質者じゃないか」

「いやお前だよ、お前以外いないだろ。空から飛んできてパンツ発光させながら王女に求婚する左手薬指に結婚指輪付けた変態は」


 至って真面目にプロポーズしただけなのに、僕っ娘ロリから変態呼ばわりとは。


「渡る異世界ロリばかり、だな」

「僕はロリじゃない!大体仮にロリだとしてお前はそのロリに詰められて死にたくならないのか?」

「最高の誉では?」

「最低の既婚者め。いやそうじゃなくて!」

「そんなことよりだ。結局、私が女神の遣いだとしてお前は何の用なんだ?」

「それは――まあ色々だ」


 マチカは私の手を放し、苦虫を噛み潰したような顔をして。


「僕はひとまずお前が本物の女神の遣いかどうかを見極めるように、お……上司に言われている」

「偽物の遣いがいるのか?」

「まあ現状お前は王女に猥褻行為を働いた一般大罪人かもしれないしな。……そっちの方が可能性高そうだが」


 予言通りにも関わらず、どうやら私が女神の遣いだと言う確信はないらしい。

 隣国の凄腕占い師によっぽど信頼がないのか、或いは彼女達が別のことを探ろうとしているのか。

 

「で、君達は私が女神の遣いだか見極めるために何をさせるつもりなんだ?緊縛口枷目隠しソフトSM、いいだろう。どんな責苦にも耐えようじゃないか。お相手は美女で頼む」

「誉は与えないぞ。なに、別に特別なことじゃないよ。お前をこの後行われるアルコバレル学園の入学試験に参加させるだけ……そろそろ時間か」

「時間?何の――おっと」


 話を打ち切ったマチカは私を俵担たわらかつぎすると、そのまま歩き出す。辿り着いた扉の上には体育館と表記されている。


 群衆の視線の先、舞台の真ん中では赤い角と大きな翼、床につくほど長い尾を携えた女教師ルックの半人半竜が半笑いで集まった受験者を見下ろしていた。


「人外女教師だと!?女神の遣いの作法だ、求婚しなくては……」

「見た目がロリじゃなきゃ見境なしかお前!?ちょっと黙ってろ……おいこら、パンツ光ってきてるじゃんか!?やめろ変態、馬鹿!」

「やはり服越しでは輝きが足りな……むぐっ……!?ようひょ幼女ひゃるくひゅわ猿ぐつわじあん事案…………!」


 マチカがハンカチを口に巻いてきた。嫌だ!SMに興じるなら相手はタイトスカートが似合う女王様がいい!幼女はまずいノーセンキュー……!


「……よしよし静かになったな、僥倖ぎょうこう僥倖ぎょうこう

 うむ!此度集いし命短き人間を筆頭とした勇士たちよ!

 妾はタマータルシェーシャ!偉大なる竜族の1人であり、汝らの試験監督である!

 気軽にタマータちゃんと呼ぶがよいぞ!

 妾がこれより直々に第13回アルコバレル学園入学試験の説明を開始してやるのじゃ!

 耳をぶち抜きしっかり聞くがよい!」


 こうして私は呼吸を整える間もなく、アルコバレル学園の入学試験に参加することとなった。

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