第4話 「セイバー・メトリクス」に米国(プロ)野球界はどう反応したか
◎ 米映画「マネー・ボール」(DVD:各種製作裏話が盛り込まれている)に見るセイバー・メトリクス革命
<あらすじ>
或るプロ野球チームの新人発掘会議で、スカウター(新人選手を発掘しスカウトする人)たちの間で交わされる議論とは「この新人が撃つと快音が球場に響き渡る」「デカいし、足も速くて才能もある」「だが、彼は生意気だ」とか、「彼女がブスだ」とかいった、芸能的話題ばかり。
これに対し、この球団のGM(ジェネラル・マネージャー:支配人)は怒ります。「あんたらプロだったら、もっと実のある話ができないのか !」と。
しかし、スカウターたちは「20・30年の経験と鑑識眼を持つ」とか「150年間のプロ野球の歴史」という「従来からの常識・よき慣習」という壁によって、このGMを押さえ込もうとします。
結局、GMは、自分自身で発掘してきたエール大学経済学部卒という(観客として野球を楽しむ以外)全くの素人を自分の補佐にし、新しい野球(選手の発掘と指導)を開始します。
シーズンが始まってからも、彼らが採用した選手を現場の監督が実際の試合で起用しない、といった障壁にもぶつかりますが、このGMの(従来の壁をぶち破るんだ、という)不撓不屈の精神と、補佐役によってはじき出された膨大な数字と数式による実データへの絶大なる信頼によって、困難を乗り越えていきます。
(このGMは元プロ野球選手でしたが、高校時代にスタンフォード大学から奨学金の給付をオファーされたほど、学業でも優秀な人間ですから、単に補佐役の提言を鵜呑みにして実行しているわけではないのです。)
球団の最高責任者(GMの上役)も、経営者として彼らの論理的な観点に興味を示します。
結局、GMの最終目標であったワールド・シリーズ(全米No.1を決める試合)への出場は叶いませんでしたが、彼らが目指した「セイバー・メトリクスという新しい手法によって、従来の芸能界染みた野球を科学に近づけ、観客にとっても新しい野球の楽しみ方を提案する」という意識は、アメリカのプロ野球界に革命と呼べるほど大きな影響を与えました。
この「革命」に即座に反応したのが、名門ボストン・レッドソックスでした。
彼らは、球界が嫌っていたセイバー・メトリクスの元祖ともいうべき、ビル・ジェイムスという、数学は得意だが食品会社のガードマンであった男を雇い、翌年ワールド・シリーズで優勝したのです。
アメリカで最も古い野球チームの一つであるレッドソックスの球団社長は、オークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーンにこう言います。
「球界が誰を好こうと嫌おうと、私は気にしない。」
「君たちオークランド・アスレチックスは4,100万ドルで決勝進出チームを作った(ヤンキースは1億2千万ドル)。」
「3人もの有能な選手を引き抜かれながらも、彼らがいた時よりも多く勝った。」
「アスレチックスの勝ち試合数はヤンキースと同じだ。」
「ヤンキースは1試合あたり140万ドルを使い、君はわずか26万ドル使っただけだ。」
「君(ビリー・ビーン)もいろいろ言われただろう。だが、最初に何か為す者は叩かれる。常にだ。」
「皆、セイバー・メトリクス革命は球界の脅威だと言うが、実は、彼らの仕事が脅やかされているに過ぎない。」
(従来の芸能評論家的な手法では、セイバー・メトリクスという手法を運用することはできない。そうなれば、旧来の慣習にどっぷり浸かった、マスコミを含む野球マフィアたちの生活が脅かされる。」ということ(平栗注)
「それは政治もビジネスも皆同じだ。」
「そこを支配している者、既成の権力(者たち)はみな、自分たちの生活が脅かされる考え方やシステムに強い抵抗を示す。」
「しかし、今の(古い体質の)チームを解体し、君の方法で作り直さねば、(かつて恐竜が滅びたように、アメリカのプロ野球もまた)過去の遺物になるにちがいない。」
「そして、そんな(古い体質の)奴らは家にこもり、10月に我々ボストン・レッドソックスが(ワールド・シリーズで)優勝するのを見ることになるのだ。」
◎ 或るメタファー【metaphor隠喩】
マイナーリーグの捕手ブラウンは体重108キロの太っちょだ。
彼はある公式戦でバッターとして、初球をセンターへ弾き返したが、一塁ベースを回る時に転倒し、慌てて一塁ベースへ這って戻る。
ところが、ブラウンの打った球はホームランだった。
彼は、特大ホームランをただのヒットと勘違い(過小評価)し、2塁ベースへ向かって108キロの巨体で必死に走っていたのだ。
オークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーンに対し、彼の刎頸の友とでも言うべき補佐役のピーター・ブランドは、この様子を写したビデオか「あなたのやったことは特大ホームランと同じことであったのに、あなたは自分でそれを過小評価している」と諭したのです(ビリー・ビーンは、ワールド・シリーズ(全米No.1を決める試合)へ出場できなかったことに拘わり、自らの業績に否定的でしたた)。
勿論、レッドソックスの新GMとしてビリー・ビーンがオファーされた2,000万ドルという業界最高の提示額を彼がどう評価するかは別問題です。
(ビリー・ビーンは、結局、このオファーを辞退し、オークランド・アスレチックスに残る決断をしました。)
(ビリー・ビーン)
「人は野球に夢を見る。」
「これはファンの為だ。」
「おかげでチケットも売れるけど。」
「オレには意味が無い。」
(ピーター・ブランド)
「しかし、僕らは20連勝し、記録を作った。」
(ビリー・ビーン)
「オレはこの世界にずっといる。」
「目的は記録ではないし、優勝指輪でもない。そんなものはいい。」
・・・・・
「だが、我々がこの予算で(ワールドシリーズに)勝てば、世界が変わる。」
「それが望みだ。そこに意味がある。」
2023年9月15日
V.1.1
平栗雅人
野球バカの壁 V.1.2 @MasatoHiraguri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。野球バカの壁 V.1.2の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます