28/D

直径6メートルの煉瓦の井戸、または円形の露天風呂かと思う人工的な地下空洞には地上から地下の中心に向かって真っ直ぐ伸びる長い階段があった。降りた突き当たりの壁には嵌め込まれるようにして一つの檻が設置されている。そこで初めてこのスペースが監禁所であると分かる。鉄格子は一本一本が分厚く、大瑚の力でも変形すらしない。設計上、月の光しか差し込まない。何が「案内してやる」だ。大瑚はストレスで壁を殴った。鈍る体を叱責するように狭い空間で体を鍛える日々を送っている。


数日前、渓谷に突き出た岩を覆うようにして建つ、細く長い家を見た。横幅がなく、甚しく縦に長いそれは大瑚を連行した小さな集団の家である。しかし、大瑚はその中へ招かれることはなく、すぐさまそばの地下空洞に入れられたのだ。朝晩と最低限の物資が与えられ、排泄する時だけ数名がかりで連れ出される。家で駆け回る子供の足音、笑い声、誰かの歌。男たちは家の前の平地で体を作ったり、子供たちとよく遊んでいるようだ。生活の中で、互いに名前を呼び合う彼らの声を大瑚はただただ地下で聞く。

階段の音がして真正面に降りてくる足が見える。バンダナ頭の少年は檻の隙間から食糧をねじ込んだ。


「おいカイト、またパンと水かよ」

「くたばれ部外者。呼び捨てするな」


 大瑚が檻を掴んで威嚇すると少年は肩を震わせた。










──キリウ、ジバが来よるぞ。


 嗄れた声が届き、十九歳の若きリーダーは立ち止まる。後に続く仲間たちはいつものように彼の異変に気づいた。


「レイン、フー、牢屋の男を連れて来てくれ」


 キリウの命令に二人は頷く。


「カイト」

「任せろ」


 慣れた様子のカイトはバンダナを靡かせながら駆け足で自分たちの家へ入っていく。

 ピーキングが届く時、キリウはいつも腹に大きな岩が食い込んでくる感じがする。


 死んで土にかえると土のものとなり、一生自分のものにはならない。 

 どうせ自分のものにならない──。

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