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 目蓋の垂れはじめた一見穏やかな顔の男は山間部の奇岩城からゾーオンの女と乳幼児を住まわせた絶壁の住居を見下ろした。整然とした白い歯に上がった口角、常に一本の棒が通ったような姿勢の良い肉体は五十を過ぎた容姿ではない。

 部屋に並べられた長い岩テーブルの上には火工品がずらりと並べてある。爆薬、火薬、炸薬。どれもハイマの町を崩壊させるのに使用したものばかりだ。これらを作るのに何年もかかった。開発するだけでない。数も多く必要だった。設置するのも随分と苦労があった。もちろん火工品だけではない。ジバを作るのも、ハイマの動きを把握するのも、鈴木陽一郎の近辺を調査し、ゾーオンを味方につけるのも……あげだしたらきりがない。

 櫂吏は石の窓枠を撫でた。

 巨岩を蜂の巣のようにくり抜き作ったこの秘境は周囲の岩石と同化したジバの根城である。ここには彼の子供であり部下であるジバが全部で百六十人住んでいた。城の下部で黒服の部下が子供を数人運んでくるのが見えた。その子供たちは刻印されるため彫り師の部屋へ連れて行かれる。


「町内で確認できた死体数は四千八百八十三。島のハイマは五千程と言われていますからまだ全滅ではありません」


 片膝をついて話す三十歳のジバは櫂吏が島に来て初めてゾーオンに産ませた子供である。六歳になった子供たちに電流を流し、ファングネイルの有無を調べ、ハイマかゾーオンかを区別する。大抵、ゾーオンだった子供はこの時点で息絶え、その後ハイマだった子供はジバとして教育するのが基本であった。

 櫂吏は短く鼻で笑った。


「鈴木陽一郎の後継者も処刑したことです。もう十分かも知れませんね」

「はい」

「と言うとでも?」

「し、失礼いたしました」

「あなたは私の命令を覚えていますか?」

「はい! シバでないハイマは一人残らず殺すこと」

「そうです。生き残りがあってはいけない」

「はい! 失礼いたしました」


 外から戻った別のジバが立膝をつく。


「櫂吏様、奴を牢に入れました。ここで絞めても宜しいでしょか。それとも拘置所に送りますか?」


 目尻を下げて部下を一瞥し、黒々く歪な細い廊下を歩く。二人のジバも櫂吏の後をついて行った。


「部下達が随分と手こずったようで。楽しませてくれてありがとうございました。あなたって人は随分と土地勘があるようで……それにしてもよく迷いませんね。見えるところが全部緑なのに」


 牢の中で手を頭上で拘束された男を笑ってない目で見つめた。


「俺は森での暮らしが長い。当たり前だ」

「赤子山監視員。確かに仕事柄そうですよね」


 櫂吏がわざわざ捕獲したハイマに会いにいくなどなかった。いつも部下に任せて処刑している。部下は彼の思惑を汲み取ろうとするがわからない。


「あなたは何年もこの奇巌城を見つけられなかった。でも、私たちは何年も前からあなたのことを知っていましたよ。私たちの方がこの森を知っています」

「……こんな若い奴ら使って、何してんだよあんたは」

「迷ってないのにどうして戻ってきたんです?」

「え」

「わざわざ足に傷も負って、迷ってないのにどうして私たちのもとへ?」

「……」

「それがどうしても知りたいのです」


 櫂吏は部下に合図する。男の手錠に電流が流れ出した。

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