8-4
「グノームの言うとおりよ。原始の精霊は、アタシたちとはまたちょっと違うの。なんて言うか、人間に興味を持つような次元の存在じゃないのよね」
オンディーヌの言葉に、ほかの三にゃんズがうんうんと頷く。
「オレさまも、原始の精霊が人間にかかわろうとしたなんて聞いたこともないぞ」
なるほど、そうなんだ……。
『エリュシオン・アリス』では、ヒロインは六大精霊と心を通わせて聖女になったと描かれていたけれど、でも例によってエピローグでちょこっと出てくるだけの情報だからね……。心通わせたとあるだけで、受肉やら聖獣に育てるやら聖歌が糧だとか、そのへんの情報も全部省かれていたから、もう今さら驚かない。
「ぼ、ボクたちだけじゃ嫌?」
グノームが目をうるっとさせて、私を見上げる。まさか!
私はその場に膝をついて、グノームの顔を覗き込んだ。
「私の人生において、あなたたちに出逢えたことが一番の幸運だと思ってるよ」
「ほ、ホント?」
「うん、本当。ゴメンね。完全に私の知識・認識不足。光と闇の精霊もあなたたちと変わらないと思っていたからそう言っちゃっただけで、でもそれはあなたたちだけじゃ嫌だから、満足できないからじゃないよ。それは絶対。ただ、みんな揃っていたほうがあなたたちも嬉しいんじゃないか、楽しいんじゃないかって思っただけなの」
グノームの頭を優しく撫でる。
あらためて、ゲームに描かれていたのは、この世界のほんの一部だけなんだって思う。
やりたいことをやって生きたい――。それは譲れない。そのために完璧に悪役令嬢を演じきったんだもの。
でも、それでも聖女になったんだから、この子たちと一緒にいると決めたんだから、この世界のこと、精霊のこと、そして聖女のことも、私はもっと知らなきゃ。
「ゴメンね? 大好きなあなたたちのこと、もっと勉強するわ」
もちろん、聖女になったから。それが義務だからじゃない。私自身が、大好きなにゃんこたちと、楽しい生活を送りたいから。
聖女になって、もちろん面倒なことはある。人間関係やら、警護やら、いろいろと。
でも、やりたいことが増えていくのは純粋に楽しい。
それが、私の人生をより鮮やかにしてゆく。
私は嬉しそうなにゃんこたちにとびっきりの笑顔を向けて、立ち上がった。
「さぁ、家に帰ろう! 今日の朝ごはんはなににしようか」
◇*◇
「ごめんくださいー!」
元気な声とお店のドアをノックする音に、お店の再開に向けて作業をしていた私は、顔を上げた。
「はーい?」
布巾で手を拭きながら駆けてゆき、ドアを開ける。
そこに立っていたのは、とても小柄な――三十歳ぐらいの男性だった。格好は……商人かな? 異国風の服を着て、大きな荷物を背負っている。
男性は私を見ると、びっくりした様子で目を丸くした。
「えっ? ええと……アシェンフォードの公女さま……で、お間違いないですか?」
――そうだね。公爵令嬢がエプロン姿で出てきたら驚くよね。
「はい、間違いないです」
頷くと――男性はホッとした様子で表情を緩め、背負っていた大きな荷物をドア前に下ろして、それをゴソゴソと漁り出した。
「フォルトさんからの依頼で、こちらに伺いました」
「ああ、料理長の」
フォルトは、王都の屋敷の料理長の名前だ。
「はい、こちらの件で」
そして男性は、荷物の中から、あの王都で食べた赤い洋ナシもどきを取り出した。
「あ!」
「これをお求めと伺ったのですが」
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