8-3

 そっか。じゃあ、なおさら心を込めて歌わないとね。


「はじめてのお勤め、お疲れさまです」


 にゃんこたちの頭を順番に撫でていると、アレンさんが手を差し出してくれる。

 私はその手に自分のそれを重ね、立ち上がった。


「ありがとうございます。アレンさんから見ても、上手くできてました?」


「はい、すごく……」


 アレンさんが頬を染め、照れたように笑う。


「すごく……綺麗でした……」


「っ……」


 う、うまく歌えてたか訊いたんだけど……。


 予想外の答えに、思わず顔を赤くしてしまう。


「あ、ありがとうございます……?」


 自分で言っておいてなんだけど、なんのお礼だろう?


「じゃ、じゃあ、帰ろうか」


 ツッこまれないように大きめの声を出して、にゃんこたちを見回して――ふと、思う。


「そういえば、光と闇の精霊はどんな子たちなの? いつか会いたいね」


 そう言って笑うと、にゃんこたちが少し戸惑った様子で顔を見合わせる。

 そして、アレンさんもまた驚いた様子で目を丸くした。


「え……?」


 なに? その反応。


「ティア、光と闇の精霊の受肉に成功した聖女は、過去に存在しません」


「えっ!?」


 でも、聖女の能力は、六大精霊を受肉させるものでしょう!?

 私の言葉に、アレンさんは「そのとおりです」と頷く。


「伝承ではそうです。しかし、実際に光と闇の精霊の受肉に成功した聖女は確認されておりません。少なくとも、文献には残っておりません」


「そう……なんですか……?」


 聖女が六大精霊を受肉させると神聖力が爆発的に高まり、天災と魔物の出現が減る。六大精霊を聖獣に育て上げることで天災はさらに減って、魔物も消滅するって話だったから、六大精霊全員を受肉させて聖獣に育て上げることが聖女の責務なんだと思ってたけど……違うの?


「繰り返しますが、伝承ではそうです。しかし、その域にまで到達できた聖女はまだいないということです」


「え? でも前例がないなら、六大精霊を受肉させて聖獣に育て上げたら天災がなくなり、魔物が消滅するって――どうしてわかったんですか?」


「今までのデータ上、そうなるだろうって話だと思います。受肉させた精霊が増えるごとに天災が減ってゆき、魔物の出現がなくなっていったという話ですから」 


「そうなんですか?」


「ええ。今まで、ティアのように四精霊一気に受肉した例はありません。長い時間をかけて徐々に一精霊ずつ受肉していくものでしたので、一精霊の受肉に成功するごとに起きた世の中の変化は、かなり克明に記録されています」


 あ、なるほど。つまり、その記録から構築した予測なのね。


「受肉に成功したのは最大で四精霊までです。彼らを聖獣に育て上げた時点で、天災と魔物被害はほぼなくなったという話です。目撃されることはわずかにあったようですが」


「そうですか……。なぜ、光と闇の精霊は、受肉の成功例がないんでしょう?」


 グノームがうーんと首を傾げる。


「光と闇の精霊は、ボクたちとはちょっと……ええと……違うって言うのも違うかな……」


「違う?」


「うん……。混沌とした世界に最初に現れたのが、闇の精霊なの。次に、その世界に光が差した。その光は太陽だよ。そして、世界に太陽の化身ともいわれる光の精霊が生まれたの……」


 シルフィードが私を見上げる。


「この二つが原始の精霊だ。人は、六大精霊って俺らをひとまとめにするけれど、実際は少し違う。俺たち火・水・風・大地の精霊は、原始の精霊が世界を構築する過程で生まれたから……うーん、つまり、一つ段階が違うって言うのかな?」


「そうなんだ……」

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