8-2
「私自身が心配なのです。精霊たちの強さは知っていますが……」
私を映す――金色に見える不思議な色合いの双眸が、切なげに揺れる。
「貴女になにかあったらと思うと胸が潰れそうになるのです」
「っ……」
ううっ……! と、とんでもなく作画がいいっ……!
アレンさん、絶対に私がアレンさんの顔に弱いの知っててやってるよね?
「どうか、申し訳ないなどと言わず……」
「わ、わかりました! 明日からは、迎えに来てください!」
ずいっと顔を近づけて迫られて、たまらずそう言ってしまう。
アレンさんは満足げににっこり笑って、私の手を取った。
「ありがとうございます。では、参りましょうか」
「……はい……」
……実際、どれだけ鬱陶しくても、そこは譲歩しなくちゃいけないって思ってたところだしね。
だから、決してアレンさんの奇跡の顔面に屈したわけじゃないんだからね!
心の中で誰にあてたわけでもない謎のツンデレを発揮しているとうちに、聖女の間にたどりつく。
「う、わぁ……!」
たしかに古いけれど、松明に照らされた天井のフレスコ画も、屋根を支える柱の精緻な彫刻や、床に刻まれた魔法陣も、厳かで神秘的で――息をのむほど美しかった。
「聖歌は覚えてらっしゃいますか?」
「はい、頑張って覚えました」
聖歌ってなんて言うか、お経や呪文みたいなのよね、難解で覚えにくかったけど、なんとか頭に叩き込んだわ。
「少々間違えても問題ないそうですよ。大事なのは、想いと祈りです」
「想いと祈り……」
「そうです。精霊たちへの想いと、この世が平和であるようにという祈りです」
私は頷き、荷物を下ろすと、魔法陣の真ん中に立った。
身体の前で軽く手を組み、目を閉じて、すぅっと大きく息を吸った。
「Lu――……」
私の声が、夜明け間近の空気を震わせる。
覚えたとおり、丁寧に音を紡いでゆく。
私のにゃんこたちが、今日も健やかでありますように。
経験するすべてを楽しんでくれますように。
そして、世界が平和でありますように。
子供たちが笑顔でありますように。
この想いが、祈りが、松明の炎とともに燃え上がり、風に乗って運ばれ、大地に染み渡り、水に溶けてゆく――そんなイメージを胸に、心を込めて歌う。
「…………」
五分間の聖唱を終え、ゆっくりと目を開ける。
すると、目の前にポンポンポンポンッとにゃんこたちが現れた。
「ティア―!」
「最高だったわ!」
三にゃんズが私の胸に飛び込んでくる。あ、もちろんシルフィードは普通に床に降り立ったよ。
イフリートはでっかいもんだから、三にゃんズ同時の抱っこには思わず尻餅をついてしまった。
「ティ……ティア!」
アレンさんが思わずといった様子で叫ぶ。
でも、心配したのはアレンさんだけだったみたい。
それぐらい、にゃんこたちは大興奮だった。
「す、すごく満たされた感じがしたよ! ドキドキした! すごかったよ!」
いつも大人しいグノームまでが、私の胸もとにスリスリしながら大きな声を出す。
「満たされた?」
「もちろんさ。聖歌は、僕たちの成長の糧だからね」
シルフィードが「当然でしょ?」とばかりに言う。
「聖女の想いが、真心が、願いが、僕たちを成長させていくんだ」
「そうなんだ……」
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