7-9
「王国の若き太陽にご挨拶申し上げます」
「……ふん」
それでいいんだよとばかりに、王太子殿下が肩をそびやかす。
「では、兄を待たせておりますので、わたくしは失礼いたします」
「はぁ?」
もう一度丁寧にお辞儀をして、足早に身を翻すと、王太子が信じられないという声を上げる。
素早く脇をすり抜けようとした私をにらみつけ、乱暴に手をつかみ上げた。
「わざわざこの私が声をかけてやったのに、なんだ! そういう態度が、いい気になっているって言ってるんだ!」
「きゃっ!」
「自分の立場を思い出せ! お前はアリスを苦しめた罪人なんだぞ! わかっているのか!?」
「っ……」
罪人とまで呼ばれるようなことはいっさいしていない。
ゲーム内でアヴァリティアが――そして、私がシナリオに倣ってしたことは、身分関係なく好き勝手に振る舞うヒロインを叱責し、二度と同じことをしないよう制限したりしたぐらい。
虐めをしたのは、アヴァリティア以外の人間だ。アヴァリティアさまのためにって――都合よくアヴァリティアを隠れ蓑にして。
断罪時も思ったけれど、よく調べもせず集団で囲み、糾弾する行為こそ虐めじゃないの?
「殿下、わたくしは……」
「せっかく第二夫人として娶ってやろうというのに!」
は?
予想だにしていなかったとんでもない言葉に、思わずフリーズしてしまう。
なに? 第二夫人? ダイニフジンってなに? どういうこと?
「ティアになにすんだっ!」
咄嗟に反応できずにいると、なにもない空間からイフリートが現れ、王太子殿下に牙を剥く。
「なっ……!? あ、赤い猫!?」
王太子殿下がぎょっとして手を離す。私は素早く身を翻すと、別室を飛び出した。
「あ! おい! 待てっ!」
王太子殿下の怒りの声が、背中を追いかけてくる。
「ティア、大丈夫か? アイツ、燃やしてやろうか?」
「イフリート、ありがとう! すごく助かった! でも、燃やすのは駄目!」
私は大ホールに駆け込み、視線を巡らせた。お兄さま……! お兄さまは……!
お兄さまが私に気づいて、にこやかに手を振りながらこちらに来てくれる。
「ああ、ティア。どこに行って……」
「お兄さま!」
私はイフリートともに、お兄さまの後ろに駆け込んだ。
「ん? どうしたんだい?」
「アヴァリティア!」
怒りに顔を歪めた王太子殿下が、まっすぐこちらに向かってくる。
「……ああ、そういうことか」
お兄さまはすぅっと目を冷たくすると、私を背に庇って王太子殿下に向き直った。
「これはこれは殿下、なにかご用ですか?」
「お前に用などない! アヴァリティアと話をするだけだ! 退け!」
王太子殿下はお兄さまを見もせず、後ろの私をにらみつけたまま怒鳴った。
「やっていいことと悪いことがあるぞ、アヴァリティア! ろくに話も聞かず、精霊をけしかけて逃げるなど!」
「えっ!? け、けしかけてなんか……」
「そうだぞ! 嘘を言うな! ティアは助けてくれとすら言ってないぞ! オレさまが勝手に出てきたんだ! お前がティアにひどいことをしたから!」
「うるさいっ!」
頭に血が上っているのか、イフリートに対してまで怒鳴る。
瞬間、遠巻きに見ていた貴族たちが顔色を変え、ざわめいた。
「あの紅蓮の炎のような猫は、精霊さまなんですよね? 精霊さまになんて口を……」
「この国をお守りくださる存在に、なんて無礼な……」
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