7-3
悩む私たちに、アレンさんもまた首を傾げる。
「そうなのですか? 私の中のティアのイメージとはかなり違いますが……」
あ、そっか。アレンさんは、悪役令嬢やってたころの私を知らないものね。
「聖都の主神殿を訪れる際に着ていらした白いドレスは、とてもよくお似合いでしたよ」
「ええっ!? アヴァリティアさまが、白!?」
シャディローランが愕然とした様子で私を見る。
「白いドレスなんてお持ちだったのですか!?」
「一着だけね。以前、お兄さまにプレゼントしていただいたの。わたくしのイメージではないし、ずっとクローゼットにしまい込んでいたのだけれど、流行りすたりのないシンプルな形だったし、神殿に行くにはよいかと思って……」
でも、たしかに、私からしても、あちらのドレスのほうが似合っていたような気がする……。
「アヴァリティアさまに白……? アヴァリティアさまに白ですか……」
今までのイメージが強いからだろう。シャディローランが少し納得がいかない様子で考え込む。
アレンさんはふと店の奥を見て、そんな彼女に話しかけた。
「あの、シャディローランさま。あちらのドレスはどなたかの依頼品ですか?」
「え?」
アレンさんが手で指し示したのは――何人ものアシスタントさんが仕上げを施している最中の、淡い紫色のプリンセスラインのドレスだった。
上半身はとてもシンプルでスッキリ、肌の露出を控えたエレガントなロングスリーブデザイン。
下半身はささやかなラメが入ったチュールを何枚も重ねているのだけれど、少しずつ染めの色を変えているのか、アシスタントさんが触れるたび、トルソーの方向を変えるたび、ピンクにも淡い青にも表情を変える。腰の後ろでリボンのように重ねた立体感あるフリルがとても可愛く印象的で、上半身の大人っぽいエレガントさといい意味でギャップがあって、これが大人可愛いってヤツなのかもしれない。
首もとから裾まで贅沢にあしらわれた総レースはさすがと言わざるを得ない、繊細で精緻。
大人っぽく、エレガントで、それでいて可憐で、夢のある可愛らしさ、そして淑やかで清楚。
一着でいろいろな表情が出ている美しいドレスだった。
「あら、いいえ。あれはわたくしの趣味と言いますか、頭の中に溢れるイマジネーションを存分に吐き出した……トレンドも採算なども完全に度外視して、欲望の赴くまま、わたくしが今作りたいものを形にしたドレスですわ」
シャディローランが肩をすくめる。
「現在のトレンドと合わせて、依頼された物や誰かに似合う物を作っているだけだと、わたくしのイマジネーションや創作性が錆びついてしまう気がしますの。ですから、自分の趣味と欲望だけをつぎ込んだドレスを、時折作るようにしていますのよ」
「そうですか。シャディローランさまのその研ぎ澄まされた創作性を遺憾なく発揮して制作されたドレスなのですね。どうりで素晴らしいわけです」
アレンさんは納得した様子で頷き、シャディローランに視線を戻した。
「ティアに――聖女さまにとても似合うと思います」
えっ!? 私!?
アレンさんの言葉にびっくりしてしまう。
まさか! アヴァリティアには上品でエレガント過ぎるし、清楚で可憐で可愛すぎるよ!
シャディローランもそう思ったようで、あり得ないとばかりに首を横に振る。
「えっ!? まさか! アヴァリティアさまのイメージとはまったく違います!」
「ですが実際、イメージどおりと仰ったドレスは、彼女に似合っていません。そうですよね?」
「それは……」
シャディローランがグッと言葉を詰まらせる。
アレンさんは再びドレスへと視線を向けると、うっとりと目を細めた。
「あのドレスは、並みの女性では着こなせないと思います。ドレスの素晴らしさに負けてしまう。それほど力のあるドレスだと思います」
「光栄ですわ」
「だからこそ、三百年ぶりに降臨した至上の女性――聖女さまを彩るにふさわしいのではないかと私は思います」
シャディローランがハッとしてアレンさんを見る。
「聖女さまを彩るドレス……」
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