7-2
「いえ。聖女さまのパートナーはアシェンフォード公爵閣下とアルザールさまが務められます」
アレンさんがにっこり笑顔で首を横に振る。
「私はそのような身分にありません」
……そんなことはないと思うけどね。少なくとも『殿下』って呼ばれる身分なんだから。
でも、それは言わない。なにも訊かない。そう決めたから。
「まぁ、そうなのですね。残念ですわ。お二人はとても絵になりますのに……」
本当に残念そうに言って、シャディローランがグッと拳を握る。
「それにしても、久々のアヴァリティアさまのドレスですのに、一からお作りできないのが本当に残念で仕方ありませんわ! 式典は明後日と伺っております! それでは見本やわたくしの趣味で作ってあったドレスをアヴァリティアさまように調整することしかできません!」
「そうよね」
私は頷いた。
この時代、ドレスはすべてオートクチュールだもの。個人に合わせて作るもの。パンや食べもの以外の歴史にはあまり詳しくないけれど、民の間でもまだ既製服という概念はなかったはず。
「だから、持っているドレスで間に合わせようとしたのよ。なのに、お兄さまが……」
「いいえっ!」
シャディローランが激しく首を横に振る。
「アルザールさまは間違っておられません! 悪いのは式典の日程を決めた者どもです! ああ! これだから男は! 聖女覚醒から式典まで最低半年はいただかないと、聖女さまのためのドレスが縫えないことすらわからないなんてっ!」
え? いや、ドレス合わせで国の行事は決められないと思うよ……?
「あの、そういうわけだから、とても忙しいと思うけれどお願いしていいかしら?」
「もちろんですとも! 忙しいですが、アヴァリティアさまのドレスが最優先です! ほかの客は半年でも一年でも待たせますのでご心配なく!」
いや、それは心配するよ。シャディローランのその強気なスタイルに口出す気はないし、単純にすごいとも思うけれど、もう少し顧客を大切にしてほしいかも……。
「わたくしの忙しさを慮ってほかのデザイナーのところに行かれていたら、わたくし、店を畳んで三年は泣き暮らし、二十年はアヴァリティアさまをお恨み申し上げておりましたわ」
ひえっ!
その言葉に、思わず冷汗をかく。
じ、実は、シャディローランがものすごく忙しいのは知っていたから、そんな中、緊急の依頼をするのは申し訳ないって、一度お兄さまの提案を断っているのよね。
でもお兄さまが、シャディローラン以外に依頼するのは駄目だって言ったから、しぶしぶここに来たんだけど……よ、よかった。シャディローランの店がこの世から失われるところだった……。
「では、こちらへ。まずはお身体のサイズを測らせていただきますわ」
アレンさんに「行ってきます」と言い、シャディローランのアシスタントさんたちと別室へ。
部屋に入るなりものすごい速さで採寸され、シャディローランが選んだドレスを着せられる。
あ、れ……?
鏡を見て、内心首を傾げたけれど、とりあえずその姿で店内に戻る。
「ご支度終わりまし……たか……?」
シャディローランが、私を見て目を見開く。
そして、じぃーっと私を上から下まで眺め、おかしいなとばかりに眉を寄せた。
「あら? 似合いませんわね」
あ、やっぱりシャディローランもそう思うんだ。
ドレスは、光沢のある目の覚めるような真紅と深い漆黒のシルクが基調となっていて、レースもフリルもたっぷり。胸もとと膝のあたりを飾るたくさんの真紅・ピンク・黒の薔薇のコサージュが印象的。とてもアヴァリティアらしい、華麗で妖艶、豪奢なドレスだった。
ドレスを見た瞬間は、さすがシャディローランだって思った。これはもうアバリティアのためのドレスだって。ゲームで見ていたアヴァリティアのイメージそのままだったから。
でも、いざ着てみたら……まったく似合わない。どうして?
「おかしいですわね……。アヴァリティアさまのイメージそのままで、これしかないと思っていたのですが……」
「わたくしもそう思ったのだけれど……」
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