7-4
「そうです。彼女は聖女として、王や王太子、貴族の前に立つのです。ですから――」
「むしろ、以前のままのアヴァリティアさまだと、一度は断罪された令嬢だと侮られてはならない、そういうことですの?」
アレンさんがシャディローランをまっすぐ見つめて、頷く。
「ああ、わたくしったら! そういう考えがすっかり抜けておりましたわ!」
「もちろん、私はシャディローランさまのように素晴らしい審美眼を持ち合わせてはおりません。もしかしたら見当違いなのかもしれませんが……でも私は、聖女さまなら着こなせると思います。そうですね……」
アレンさんがじっくりと私を眺め、それから「失礼」と言って、私のうなじに手を滑らせ、髪をまとめて持ち上げた。
思いがけず私に触れた大きな手に、ドキンと心臓が高鳴る。
わ……。
「いつものポニーテールやハーフアップもよいですが、清楚なまとめ髪も似合うと思います」
「なるほど。それだけでずいぶん印象が変わりますわね」
シャディローランがうんうんと頷き、それからパンと一つ手を打った。
「やってみましょう!」
えっ!? ほ、本当に!?
「シャディローランが今持てるすべてをつぎ込んだドレスを、わたくしが着てもいいの!?」
「ええ! 聖騎士さまのお言葉に、わたくし、目が覚めましたわ! わたくしが今持てるすべてをつぎ込んだドレスだからこそ、至高の存在であらせられる聖女さまに着ていただきたいですわ! さぁ、フィッティングルームへ!」
え、ええ~……? 本当にいいの? 絶望的に似合わなくても、がっかりしたりしない?
でも、躊躇しているのはもう私だけ。シャディローランもアシスタントさんもすっかりその気で、あれよあれよという間にフィッティングルームに押し込められてしまう。
まずはヘアメイク。髪はアレンさんの提案どおり、清楚なまとめ髪にし、クリスタルの月桂樹の葉と小粒の真珠の髪飾りで飾る。
イヤリングも真珠に。小粒だけれど輝きが美しいそれを連ねた、動くたびに繊細に揺れるもの。
ドレスが素敵なので、アクセサリーはそれだけ。
お化粧はもともとアヴァリティアは美人だし、肌が白くて綺麗だから、最小限。少し紫がかったピンクのアイシャドウにほんのり色づくだけのピンクのチーク。リップも淡いピンクに艶感を出すぐらい。
「わ……」
鏡を見てびっくりしてしまった。悪役令嬢のアヴァリティアには見えなくて。
そして、あらためて思う。アヴァリティアってものすごい美人だったんだ……。
断罪前は、よく言えば華麗で妖艶、悪く言えば派手で毒々しい装いしかしなかったし、断罪後はドレスを着る機会なんてほぼなくて、お化粧すらほとんどしてこなかったから忘れていたけれど。
それからドレスを着せられ、ドキドキしながらお店に戻ると――私を見てアレンさんが息をのみ、シャディローランが歓喜の声を上げた。
「っ……」
「まぁああっ! なんてお美しいのでしょうっ! 最高ですわぁっ!」
「そ……そう、かな……?」
たしかに、あの真紅×黒の薔薇のドレスより似合ってると思ったけれど……。
「ドレスがあまりにも素敵過ぎるから……。わたくし、負けてない?」
「「「「「いいえ! まったく!」」」」」
シャディローランとアシスタントさんたちが綺麗にハモる。
「このドレスは、聖女さまのためのものですわ!」
「ええ、本当にお美しい。こんなにもお似合いだなんて!」
「神が、聖女さまのドレスをお作りになるようにと先生に神託を下したとしか思えませんわ!」
本当に? それならいいんだけれど……。
「ど、どうですか? アレンさん」
おずおずと意見を求めると、アレンさんが一気に顔を赤くする。
「あっ……いえ、その……」
そして、口もとを手で覆うと、参ったと言わんばかりに目を閉じた。
「綺麗です。想像を超えて……本当にお綺麗で……。すみません……言葉にならないです……」
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