6-14
「お店では出せないけど、家ではいつでも作ってあげるよ。同じものはもちろん、パティが二枚のボリューミーなものも、チーズを挟んでみるのもいいかもね。カレー味もいいかもね」
耳をぴくんとさせて、シルフィードが顔を上げる。
「本当?」
「本当! だからそんな顔しないで~」
抱き締めようとしたけれど、それは華麗に避けられてしまう。くぅっ! 手ごわい!
「ハンバーガーのほうが好きだった?」
「どっちかって言われたらね。ホットドッグも好きだよ。美味しかった」
「オレさまもだぞ!」
にゃんこたちがハイハイと手――前足を上げる。
「オレさまもハンバーガーのほうが好きだ!」
「ボクはホットドッグのほうが好き……」
「アタシもホットドッグのほう。って言うか、コッペパンがすごくよかったわ。甘いものを挟んで食べたい!」
「あ、そうなんだ? 私も大好きよ」
オンディーヌの頭を撫でながら頷くと、しかし彼女はなぜかひどく不満そうに目を細めた。
「そうなの? じゃあ、なんでコッペパンはお店の商品になってないの?」
「……あー……」
オープン時の商品ラインナップは、『お客さまに強烈な印象を残すこと』を第一に絞り込んで、決定したから、その点でコッペパンはバターロールに勝てなかったのよね。
「お店がある程度落ち着いてから、ラインナップに加えるつもりだったの」
「ホント? じゃあ、待っていたらいつでも食べられるようになるのね?」
「え? 商品ラインナップになくても、いつでも食べられるよ? オンディーヌのために焼くから。シルフィードのハンバーガーと一緒」
「ほ、ホントぉ!?」
オンディーヌがぱぁっと顔を輝かせる。ああ、もうっ! 可愛いんだからっ!
「もちろんだよぉーっ!」とオンディーヌを抱き締めていると、周りがなんだかざわざわし出す。
「え……? 聖女さま、今のって……」
「店……? 不思議パンが買える店がある……? それを聖女さまがやってるって……?」
「って言うか、聖女さまが焼いてらっしゃるって言ったか……?」
あ、そうだよね、言ってなかったよね。
「はい、このパンはすべて、わたくしが焼いたものなんです」
瞬間、今日一のどよめきが起こる。
「ま、まさか! 聖女さまは貴族のご出身でしょう!?」
「そ、そうですよ! 貴族のご令嬢が料理をするなんて聞いたことないですよ!? それどころか、キッチンにすら入らないって……」
そうね。貴族令嬢はたいてい、キッチンなんて入る場所ではないって教育されるわ。
「でも、わたくしが食べたいパンを焼けるのが、わたくしだけだったんです」
ぶっちゃけ、それに尽きる。
「そ、それは……」
「それにわたくしは、美味しいものを食べたときの幸せそうな笑顔が、なによりも好きなんです。ですから、キッチンに入ることに抵抗はありませんでした」
そもそも私(中身)は、貴族の令嬢じゃないしね。
それに、私はパンを焼くこと自体も大好きだから、アシェンフォード公爵家の料理人に作らせる選択肢は最初からなかったのよね。
にっこり笑うと、作業員さんたちも調理を手伝ってくれた神官さんたちも、「おお……」と目を見開いた。
「では、ほ……本当に聖女さまご自身が、パン屋をされて……?」
「はい。聖女として覚醒したため、今は少しお休みをいただいておりますが、いずれ再開します」
「「「「「えっ!?」」」」」
瞬間、みなさまがぎょっと目を剥く。
「ええっ!? せ、聖女さまは神殿でお暮しになるのでは!?」
「いえ、市井で暮らすことを許可していただきました」
「そ、それは危険なのでは……」
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