6-9

 元種はある。オープンの前日に、六日間ぐらいの営業分を作っていたから。まぁ、その時点で、お客さまの人数の予測を完全に間違えていたから、実際には六日間分もないんだけれど。

 でも、翌日から休業を余儀なくされて、もったいないけど廃棄するしかないなって思ってたから、使えて嬉しい。


 手早くエプロンをつけ、手を洗う。


 作りたいのは世界中で愛される私の中での二大ファストフード、ハンバーガーとホットドッグ。

 そのためのバンズとコッペパンを焼く。


「コッペパンは食パン生地をそのまま使えるし、バンズはバターロールを少しアレンジするだけ。大丈夫、試作は必要ないよね」


 時間が惜しいし、ぶっつけ本番で行きましょう!


 まずはバンズ。計量した二種類の小麦粉をふるってボウルへ入れ、そこに砂糖と少量の塩を加え、泡立て器でふんわり混ぜる。そこに元種と卵を追加。バンズは卵を入れないレシピも多いけれど、今回は入れる。水とミルクも入れて捏ねて、まとまってきたらバターを加えて、今度は再度捏ねる。

 まぁるくまとめたら、ボウルに戻して、濡らした布巾をかけて常温で置いておく。


 次はコッペパン。計量した二種類の小麦粉を同じくしっかりふるって、そこに砂糖と少量の塩、水と牛乳、元種を加えて混ぜ合わせる。まとまってきたら、作業台に出してしっかりと捏ねる。

 さらにバターを混ぜ合わせ、よく馴染ませてからまた捏ねる。全体的に均一に柔らかくなったら、まぁるくまとめて、ボウルに戻して、こちらも濡れ布巾をかける。


「すごいな……。手際がいい……」


 黙って見ていたお兄さまが、感心した様子で呟く。


「あれ? お兄さま、いたんですか?」


「えっ!? い、いたよ! 馬車を手配して、君をここまで連れてきたのは誰だと思ってるの!?」


 私の冷たい反応に、お兄さまがひどくショックを受けた様子で涙目になる。ご、ごめんなさい。私、パンに夢中になると、途端にどうでもいいことはスパーンと頭から抜けちゃう体質で……。


「聖都からいったん戻ってきてまで、何を作っているの?」


 シルフィードが椅子に乗って、背伸びして作業台を覗き込む。


「もういいんだよね? 近づいても」


 私はにっこり笑って頷いた。

 私が作業している間は、にゃんこたちは作業台には近づかないルールとなっている。実はそれは私がそうしてって言ったんじゃなくて、私の邪魔をしないようにってにゃんこたちが話し合って、いつの間にかそう決まっていた。

 実際、衛生面の問題もあるから、この気遣いはすごく助かっている。


「バンズとコッペパンというパンよ」


 ほかの子たちもやってきて、同じように作業台の周りに集まってくる。


「それってパン屋にはないメニューだよね……?」


「うん。でも、いつかは登場させたいと思ってるかな」


「どんなパンなんだー?」


 興味津々といった様子のイフリートの頭を撫でる。


「とりあえず今回は、具材を挟むために作ったかな」


「グザイ?」


「クリームとかってこと?」


 目を輝かせるオンディーヌ。やっぱり女の子。甘いものに胸がときめくよね。


「今回は別のものだけど、クリームやジャムも美味しいよ」


「食べた~い! いつ食べられるの?」


「味見なら、明日の朝かな」


「「「「え~っ!」」」」


 にゃんこたちがいっせいに不満げに声を上げる。

 と同時に、お兄さまも「えっ!? そんなにかかるのかい!?」と目を丸くした。


「ええ。このまま二時間ほど放置して一回り大きくなったら、冷蔵庫に移して一晩――最低十時間寝かせます。そうすると生地がだいたい二倍ぐらいに膨らみますので、しっかりガス抜きをして、二十分ほどベンチタイム……ええと、生地を休ませまして、成型。そこからまた二次発酵。季節やパンの種類によって違いますが、大体一時間から二時間ぐらいです。そのあと焼いて、冷まして、ようやくできあがりです」


「ええ~……?」

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