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 そこまで言って、うーんと考え込む。しっくりくる言葉を探している感じかな?


「ふふ。もっちりしてるでしょ?」


 そう言うと、年長の女の子――アニーはハッとした様子で顔を上げた。


「……! そう! まさに『もっちり』って言葉が近いかも! 硬くないの! だけど、こっちのふかふかのとは違うの! 柔らかいけど……歯ごたえがある感じ! これ不思議! ふかふかのもおいしいけど、私はこっちが好き!」  


「私も! 硬いパンとは全然違う……! 柔らかいと硬いの中間? なのがすごくいい!」


 隣のリリアも大きく頷く。さらには二人に賛同する声があちこちから上がる。


 へぇ……。思っていた以上にバゲットのほうが好きと言う子が多いな。やっぱり柔らかいパンをまったく知らないだけに、あまりにも柔らかすぎるバターロールには少し違和感を覚えるのかな? でも、美味しいって言ってるよね? 単純に好みの問題かな?

 だけどやっぱりバターロールのほうがインパクトは大きいよね。触っただけで、自分が知ってるパンとはまるで別のものだってわかるから。


 インパクトが大きいバターロールと、親しみやすいバゲット。


 やっぱりお店をオープンさせる際は、両方試食できるようにするといいかもね。


「それで、みんなどう?」


 ぐるりと見回すと、子供たちが声を大にして応えてくれる。


「「「「「「こんなおいしいパンははじめて!」」」」」」


 うーん! いいお返事! よっし! 大成功っ!


 思わず、グッと拳を握ってガッツポーズ。


「お嬢さまのパンはね、これだけじゃないんだー。また焼いたら持ってきてもいいかな?」


「えっ!? ほかにもあるの? 食べたい! 食べたい!」


「絶対持ってきて! 楽しみにしてる!」


 幼い子たちが一気に目を輝かせる。

 でも、年長者の一部の子たちは、戸惑い気味に視線を交わし合う。アニーとリリアもだ。


 ――うん、いい傾向。


 私は身を屈めて、アニーとリリアににっこりと笑いかけた。


「お嬢さまの夢はね、こういう美味しいパンがたくさん並ぶ店を作ることなの」


「え? パンのお店?」


「そう、売れると思う?」


「…………」


 アニーとリリアが再び顔を見合わせる。


「でも、お高いんでしょう? 貴族しか買えなかったり……。こんなにおいしいパン……安いわけないもん……」


「あ、でも、貴族専門のお店って考えたら、売れるかもしれない……? んー……でもわたしたち貴族じゃないから、そのあたりはお嬢さまのほうが詳しいんじゃない?」


「え? 私は元・お嬢さまであって、今は貴族じゃないのよ。知ってるでしょ?」


「え……? でも……」


「貴族専門のお店なんてとんでもないよ。絶対に嫌。みんなに食べてもらいたくて作ったんだもん。みんなが買えるお値段じゃなきゃ意味がない。だから、町のみんなが今まで食べてた普通のパンとそんなに変わらない値段にするつもりだよ」


「「「「「「本当!?」」」」」」


 アニーもリリアも――ほかの子たちも目を丸くして、私を見上げる。うん、もちろん!


「うん、本当だよ。ねぇ、お客さん来てくれると思う? みんな買ってくれるかな?」


「絶対来るよ! めちゃくちゃ売れると思う! オレなら店ごと全部買う!」


 マックスが立ち上がって大きな声で断言する。

 だけどすぐに、ハッと我に返った様子で顔を赤くした。


「あ……! お、お金を稼げるようになったら、だけど……」


「でも、いつものパンと見た目が違いすぎるじゃない? みんなはすでに一度食べてるからこれがおいしいのを知ってるけど、ほかの人たちはそうじゃないわけで……。だから、すごく心配なの。見知らぬ得体のしれないパンなんて、買ってくれるのかなぁ?」


「だったら、ほかのみんなにも知ってもらえばいいだけだよ。簡単なことじゃん!」


「そうだよ! 一度食べたら、絶対に好きになるよ! 自信持って!」


「ねぇ、バターロールってもうないの? もっとたくさんの人に食べてもらおうよ!」


 子供たちが次々とアイディアを出してくれる。――その言葉を待ってました!


「バターロールを少し小さくしたミニバターロールならあるけど……」


 私はそう言って、パチンと顔の前で両手を合わせた。


「実は私も同じことを考えてはいたの。でも、私一人じゃ不安で……。ねぇ、お願い! みんな、町でパンを配るの手伝ってくれない?」


「もちろん!」


「当たり前だろ?」


「そういう遠慮はしないでよ」


「あたしたちだって、お嬢さまの力になれるよ!」


 子供たちが競い合うように手を挙げてくれる。

 アニーとリリアもどこかほっとした様子で微笑み合う。


「ありがとう! じゃあ、パンの用意をしてくるね! みんなもご飯を食べたら出掛ける用意してくれる?」


「「「「「「わかったー!」」」」」」


 元気のいいお返事に嬉しくなってしまう。本当に、ここの子たちは良い子ばっかりだ。

 私はニコニコしながら食堂を出た。


「あ、大神官さま」


「――相変わらず、子供たちを使うのがお上手ですね」

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