ギルド
ダンジョンの周りは、いざという時のために大きなドームに囲われてる。エレベーターの周りも他の探索者でいっぱいだけど、地下と違うのはここまでは探索者以外の一般の人も入れること。
普段はダンジョンに向かう人を見送る人が多いんだけど、今日は違った。
「皆様ご覧ください! 異世界の魔女が今! エレベーターから出てきました!」
「これは歴史的瞬間です!」
「テトちゃんちっちゃーい!」
そんな声とともにたくさんのフラッシュが……、いや一部変な声もまざってる。気にしない方がいいかな。
テトちゃんはびっくりしたのか、目をまん丸にしてる。かわいい。
「サキ。あれはなに?」
「あれは、テレビカメラって言えばいいのかな……。日本中、もしくは世界中の人に映像を届ける道具かな」
「世界中……! すごい! 一つ欲しい! 調べたい!」
「えっと……。私だとちょっと、手に入れられないかなあ……」
間違いなく高いと思うから。調べたこともないから具体的な値段までは分からないけど。
それにしても。予想していたよりもすごい騒ぎだ。これ、無事に自宅に帰れるかな。まっすぐ帰ったら、絶対に家までついてくるよね。さすがにそれは避けたい。
かといって、ならどうするのかなと考えても、いい方法なんて思い浮かばないわけだけど。いや本当にどうしようこれ。
そう考えている間に、スーツ姿の男性がこちらに歩いてきた。見覚えのない人だ。その男性は私の目の前で立ち止まると、にこやかに笑いながら言った。
「初めまして、藤森様。私はギルドの副部長を務めている林田と申します。テトさんの件について、詳しくお伺いしたいのですが、今はお時間よろしいでしょうか?」
副部長さん! よく分からないけど、多分偉い人!
「は、はい! 大丈夫です! むしろ帰れないので助けてください!」
『副部長! って偉いの?』
『ギルドのトップは部長さんで、その次は副部長さん、だったはず』
『ていうかサキちゃん帰れないのかw』
『そりゃこんな状態だとなあw』
じゃあ本当に偉い人なんだ。こんな人まで出てくるなんて、さすがはテトちゃんだね。
そのテトちゃんは林田さんを見つめてる。警戒してることを隠す気もないみたい。じっと、見つめてる。よく見ると林田さんも少し緊張してるように見えた。
「では、どうぞこちらへ。周りの者は近づけさせませんのでご安心ください」
林田さんがそう言って歩き始める。その先には、なんだか高級そうな鎧やローブ姿の人が集まっていた。あれは、私でも知ってる。新しい層に行く時は必ず参加する有名な探索者のパーティだ。
「あれは……バスターブレイバーズ……!」
『バスターブレイバーズwww』
『何度聞いてもこう……ちゅうに!』
『なおリーダー以外は恥ずかしいらしいw』
そうなのかな。テトちゃんの手を引いて歩き始める。バスターブレイバーズの人たちの近くに行くと、そのメンバー五人は私たちを囲んで歩き始めた。護衛ってことだね。
「バスターブレイバーズの皆さんに会えて光栄です」
そう言ってみると、先頭を歩く男の人はにっと笑って言った。
「ははは! 君たちの安全は僕たちが守るから安心してくれ!」
きらっと歯が輝いているように見えました。
『何度見ても痛々しいリーダーだなあw』
『信じられるかい? 好青年に見えるけど、パーティ名を独断で申請した張本人だぜ』
そっと他の人を見てみる。なんだか少し恥ずかしそうに見えるのは、気のせいじゃないのかも。
「サキ。この人たちはバスターブレイバーズというパーティ?」
「うん。そうみたい」
「ふうん……」
あれ? テトちゃんそれだけ? もうちょっとこう、かっこいい名前だねとか言ってあげてほしい。いや、フォローなんてする必要はないと言えばないんだけど、こう、周りの雰囲気が……。
「なあ、やっぱリーダー殺そうぜ」
「ええ、そうね。ぶち殺しましょう」
「こいつのせいで……!」
『ヒェッ』
『こわいこわいこわいこわいw』
『でえじょうぶだ、安心しろ。こいつらいつもこんな感じだ』
『なんでこれで今まで解散してないんだよw』
仲がいいのかな? 分からないけど、うん。私は何も聞かなかったことにしよう。
バスターブレイバーズの皆さんと一緒にドームから出る。するとそこからはもう普通の街並みが広がってる。ダンジョン出現当時は立ち入り禁止になっていたこの区画も、今では一般の企業やお店も入るぐらいには日常が戻ってる。
それでも、ドームのすぐ側の建物は政府が買い取ったみたいで、探索者をまとめるギルドや自衛隊の待機所として使われてるみたいだけど。
「おお……! すごい。これが、日本。高い建物がすごく多い……!」
テトちゃんは周囲を見回して感動してる。なんというか、お上りさんだ。
『テトちゃんはかわいいなあ』
『なんか見ていて癒やされるw』
『信じれるかい? この子、最下層のドラゴンを一瞬で殺せるんだぜ』
『思い出させるな頼むから』
人は見かけによらないってことだね。極端すぎる気がするけど。
『俺はそれよりもお手々を繋ぐテトちゃんに癒やされてます』
『サキが握ってからずっと握ったままだよね』
『迷子にならないようにかな?』
あ、そうだった。握ったままだった。
テトちゃんを見る。テトちゃんは、特に気にした様子もなく、ずっときょろきょろと周囲を見回してる。問題なさそうだし、別にいいかな?
私たちが向かったのは、十階建てのビルだ。もともとは一般の企業のビルだったけど、今は全てギルドが使ってる。
一階は総合受付。探索者になりたい人が申請しに来たりといった、一般の人向けの場所だ。ちなみに地下一階は訓練場になってる。
二階は私たち探索者の受付。これからダンジョンに潜る人は、必ずそこで手続きをして許可証をもらわないといけない。帰ってきたらここにその許可証を返すという仕組みだ。
三階は私たち探索者が交流するための部屋で、自動販売機とかテーブルとかが置かれてる。
そして四階以降はギルドで働く人が使う。当然だけど、そこから上は一般には開放されてないし、探索者も入れない。エレベーターも、専用のカードキーがないと四階から上には行かないようになってる。
今回私たちは、その八階に向かうことになった。そこで、ギルドの部長さんや政府の偉い人が待ってる、らしい。
当然だけど配信もエレベーターまで。さすがにここから先は内緒のお話、とのこと。
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