第17話
荷物の整理を終え、テレビをつけると、田川のニュースが流れていた。田川は撃たれた背中の傷が重症で、今も昏睡状態にあるらしい。命も危ないそうだ。テレビスタジオで、ニュースキャスターが深刻な顔で説明している。人の死を願ったのなんて、人生において後にも先にもこの時だけだろう。もっとも、もしも銃弾を受けてもなお、生き延びることが出来たならば、それはただのゾンビなので、現実的に考えてありえない。間違いなく田川は死んでいる。いくら極悪人であっても、人の死を願うのは趣味が悪い。それでもなんとなく気になるので、俺はずっと、ニュース番組を観ていた。
俺がニュースに夢中になっていると、那奈が俺の隣に座り、俺からリモコンを奪い取った。そして、テレビの電源を消した。
「もうあいつのことは考えないようにしようよ」
「そうだね」
「ね、今度さ、どっかでかけようよ」
「いいね! 映画とか?」
「うん、それもいいけど、もっと色んなとこいきたいな」
「たとえば?」
「一緒に考えようよ!」
「そうだね! めっちゃ楽しそう! うわ、ガチでめっちゃ楽しみだわ!」
俺たちは会えなかった時間を取り戻すかのように、ひたすら喋った。色んな場所に出かける計画を二人で立てるのも面白かったが、特にクリスマスの話題は大いに盛り上がった。今年のクリスマスは、都内の公園の大きなツリーを観に行くことになった。もうクリスマスまで一か月を切っている。楽しみで仕方がない。那奈もクリスマスがくるのが楽しみだ、と話していた。
久しぶりに那奈と外に出かけた。といっても、徒歩数分で行ける距離のファミレスに、夕食を食べに行くだけだ。
「せっかくだから、もっと遠出してもいいと思ったんだけどな」
「雅人は最近ずっと家にいたから、まずはこれくらいにしとかないと。歩くのも少しは運動になるでしょ」
「流石にそんな弱ってないよ」
結果、那奈の言う通りだった。ゆっくり歩いたのに、ファミレスに着いた時には俺は息を切らしていた。これはまずい。いくら久しぶりの外出とはいえ、若い男がこんなことでは駄目だ。
「どうしたの? 体力には自信があるんでしょ?」
那奈は少しも疲れておらず、余裕の表情だった。俺は何も言い返せなかった。
運動したおかげで、腹が減る。最近、あきらかな運動不足のせいで少食になっていた。こんなにたくさん食べるのはいつ以来だろう。ハンバーグがこれほど美味しく感じられるのは、数分程度でも歩いたおかげだ。那奈の言う通りだ。外出するにしても最初はこれくらいの運動量が限界だったみたいだ。
「ほらね、ちょうどいい運動になったでしょう。それにしても雅人、すごい美味しそうに食べるね」
「だって美味いんだもん。いくらでも食えるわ!」
「よかったよかった! 雅人が美味しそうに食べるのを見てるだけで、私まで幸せな気持ちになれるよ。でも程々にしときなよ。いきなりたくさん食べると胃に悪いから」
もう、那奈の言う通りにしよう。那奈はいつでも正しい。絶対に間違ったことは言わない。まだまだ食べたりなかったが、腹八分目で俺たちはファミレスを後にした。
「最初のうちはこんくらいでさ、そのうち色んなとこにいけるようになるといいね」
「うん! 体力つけないとなって思った」
「焦りは禁物だよ」
俺たちは、それからよく散歩や近所のスーパーに買い物に出かけるようになった。最初の方こそ毎回息切れを起こしていた俺も、そのうち段々と体力が回復し、やがてある程度の距離でも歩いて行けるようになった。那奈の気の利いた提案のおかげで、俺はすぐに元通りの体力に戻ることができたのだった。
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