第12話

 田川は捕まるどころか、あちらこちらで強盗や殺人を犯している、とテレビで伝えられた。今、日本中でいまだかつてない程の大人数での捜査が敢行されているらしい。機動隊をも潜り抜けて脱走した男だ。それくらいしないと捕まえることは不可能だろう。ただ、恐ろしいのは、捜査メンバーが数人、全国のあちらこちらで行方不明になっている、ということだ。ネットでは、田川の居場所を突き止め、返り討ちにされたのではないかとの見方もある。たしかに、俺もそう思う。俺は自分の目で、警察官が田川に銃で撃ち殺されるのを見たのだ。奴なら、警察官ですら簡単に殺してしまうことができるだろう。そのくらい、先日、俺の目の前で警察官を何度も狙撃している時、田川は楽しそうだった。笑っていた。不気味だったし、人間の目をしていなかった。田川は人を殺すのを楽しんでいる。間違いない。狂っている。いったいあいつは人間なのか。どういう人生を歩んだら、ああなってしまうのか。疑問で仕方ない。

 それにしても、田川は身体能力も人間離れしている。パンチも強烈だったが、複数の警察官に包囲されても逃げ切ることが出来るなんて、普通、ありえない。いくら元ボクサーといえど、現実離れしている。まるで漫画のような話である。

 田川が脅威だ。俺の命は今、田川庄次郎という男によって脅かされようとしている。まさかこの世に、あれほどの化け物が存在していたなんて。田川のことを考えるだけで、初めて襲われた時のことを思い出し、体が震え、冷や汗が出る。

 家でテレビを観ていると、どうしても田川のニュースばかりで嫌なので、最近はテレビをほとんど観なくなった。一日のほとんどを、大学のオンライン講義か寝ることで費やしている。料理も、洗濯も、掃除もしない。俺の部屋は段々汚くなっていった。

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