第4話

しかし、ニュースで見た田川という男とは、似ても似つかない。田川は大柄で、人相が悪かったはずだ。しかし今、俺の目の前にいる男は細身で、顔はというと、人間ではないようで、なんとなく薄気味悪い。こいつはいったい誰なんだ。よく見ると両手や洋服にはたくさんの血がついている。狂気を感じた。その時ふと、映画に出ていた殺人鬼役の俳優のことを思い出した。あの時も狂気を感じたが、それは本物の狂気ではなかったのだ。なぜなら、この男から感じ取れる狂気は、映画のものとは種類が違う。どこか一線を超えている。こいつは俺を痛めつけよう、あるいは殺そうとしている。本能的にそう感じた。身の危険を感じ取ったのだ。今から鍵を開けて家に入るより、今の場所から十分ほど離れた交番に逃げ込むという選択肢をとり、俺は一目散に駆け出した。しかし、男の素早さは驚異的なほどで、一分もしないうちに追いつかれた。俺は肩をひっつかまれ、地面に投げ倒された、俺が起き上がる暇もなく、男は素早い動きで俺の上に馬乗りになり、俺の顔を殴りつけた。それから続けて二発、三発。俺の顔面を何度も殴った。痛い。物凄く痛い。まるでハンマーで殴られているみたいに、ひとつひとつのパンチが重い。なぜ、俺は今、この男に殴られているのか。答えはあきらかだった。ネットニュースで見た顔とは違うが、こいつは恐らく田川なのだろう。指名手配犯が整形をしながら逃げるというのは、稀に聞く話だ。それにしても、九州にいたはずがもう俺の住所まで突き止めたなんて、驚きだ。俺は今まで、物事を楽観的に考えすぎていたようだ。

「次はおめえの番だあ!」

 そう叫びながら、何度も何度も殴ってくる。俺の顔は変形してしまうのではないかと思うほど、強いパンチだった。いったいお前は誰なんだ、尋ねようとしても、もう既に体に力が入らなくなっており、もう声を出すことができない。次第に意識も薄らいでいく。俺は、那奈を守る前に殺されてしまう。意識が遠のいていく中で、そんなことを考えていると、何者かに起こされた。

「大丈夫ですか!」

 警察だ。警察の大きな声で俺ははっきりと意識を取り戻した。

「え、ええ。なんとか。そんなことより、あいつはなんだったんだ。あ、あいつは、あの男は捕まりましたか」

「他の警官が追っていますが、物凄いスピードで逃げていきました。とにかく、もう喋らないでください!」

「あ、ああ」

 俺はまもなく病院に搬送された。病院のベッドに寝かされた俺は精神的なショックと物理的なダメージのせいでひどく体がだるく、すぐに眠りに落ちた。それにしても、衝撃だ。まさか自分が、殺人犯に命を狙われることになるとは、考えてみたこともなかった。人生でいまだ経験したことのない、恐ろしい体験だった。

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